ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『エゴイスト』(松永大司/2023)

 エッセイスト高山真の自伝的小説を映画化。ファッション雑誌編集者の浩輔は同性愛者であることを隠さず東京で華やかに暮らしていた。浩輔はゲイの友人から紹介された龍太にパーソナルトレーニングを依頼する。二人はやがて付き合うようになるが、ある運命が待ち受けていた――
 出演は鈴木亮平宮沢氷魚阿川佐和子ら。監督は松永大司

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 感服しました。面白かった。

 本作でエクスプロイテーション的に注目されるのはやはり主人公二人のラブシーンだろう。トレーニングのあといい雰囲気になった浩輔(鈴木亮平)が龍太(宮沢氷魚)を自室へ上げる。部屋に入るやいなや龍太が浩輔にディープキスをする。観ていてちいかわのように「ワッ」と声を上げそうになってしまった(たぶん少なからぬ観客が心の中で声を上げていたと思う)。その後、「えっ、鈴木亮平がウケなの……!?」と思いきや、別の場面では「あ、今度は鈴木亮平がタチ……! 入れ替わりもありなのか!」と翻弄されっぱなし。「これ、R-15だよな……?」と思わず確認してしまうくらい見応えのあるラブシーンである。龍太がウリをやっている場面もしっかり描かれており、買ってるおじさんたちの風体の絶妙なリアリティにも唸ってしまった(別に知っているわけではないのだが……)。

 演出面の特徴として、本作は手持ちカメラで登場人物の顔アップの構図が非常に多い。こうすることで独特の緊張感が生まれるというか、顔アップはその人物の主観であることが強調されるので、今スクリーン上で起こっていることが客観的にどうなのかということが分からず、安心ができない。話の筋としても、年長者が生活の苦しい若い恋人に月20万円を渡す、というのはアンバランスな関係性と思え、いつか破綻するのでないかと観客に緊張を与える(といって、現代日本で家計を共にするために結婚するというような選択肢を取りづらいのが、ゲイのカップルの辛いところですが)。画角が引きになると、登場人物の主観と物語世界の客観に大きなズレのないことが分かり、少しほっとする。

 主人公浩輔を演じる鈴木亮平の演技が非常にうまい。例えば、序盤、まだ関係性が出来上がる前、浩輔が龍太に母親への手土産として折詰の寿司をプレゼントする。喜んだ龍太は、歩道橋の階段で追い抜きざまに浩輔にキスをする。その時の浩輔の「え、今のどういう意味……?」と困惑しつつもまんざらでない感じ、うまい。
 自分は鈴木亮平が出演している映画を観たことがなく、知っているのはNHKの紀行番組「世界はほしいモノにあふれてる」で三浦春馬の後継としてMCをしているところくらいだ。経緯からしてなかなか難しい現場だったのでないかと思われるが、前任者や共演者(JUJU)、番組へのリスペクトは欠かさず、徐々に自分のキャラクターを出し、なじんでいく様子に、「大人としてちゃんとしている人なんだな」と感心していた。本作『エゴイスト』でも、浩輔が龍太の実家に招かれ龍太の母から歓待される場面が非常によかった。龍太の母が「こんなお粗末な料理で」と言うと、「いやいや、こういうのが一番美味しいです」と決して世辞でない感じで返したりとか、辞去する際、龍太の母の脚が悪いと見て取ると、「いやいや、ここまででいいです。ほんとに大丈夫です」と押し返す感じとか、大人としてちゃんとしている感じがちゃんと出ていて、もちろん演技なんだけれども、持ち味でもあるんだよなあと思った。

 うまいといえば、龍太の母役も演技もうまくて、セリフの一つ一つが本当に自然なのである。この年代の女優でスクリーンであまり見覚えがないのにこんなにうまい人がいるのかと思っていたら、これ、阿川佐和子だったんですね。びっくり。阿川佐和子ってこんなに演技がうまかったんだ(公式サイトの監督松本大司のコメントで「既視感のない方」としてキャスティングしたとあり、いや、狙いがぴったりはまっているなと感心した)。

 というわけで、本格的なラブシーンに目を奪われがちなのですが(いや、明らかに気合が入っているし、十分に観る価値のある場面なのですが)、独特の緊張感と俳優陣の自然な演技で、最後まで目を離させない素晴らしい映画でした。

乃木坂46 32nd選抜メンバー予想の答え合わせ

 2023/2/19の「乃木坂工事中」で乃木坂46の32ndシングル選抜メンバーが発表された。
 自分の事前の予想は以下の通りである。

予想

フォーメーションは4-6-8の18名で、
弓木、璃果、柴田、岩本、筒井、清宮、早川、林
 田村、梅澤、遠藤、鈴木、与田、久保、金川
    賀喜、菅原、井上、川崎、山下
(秋元、飛鳥、阪口out、璃果、清宮、井上、川崎、菅原in、センターは井上)

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実際の選抜メンバー

フォーメーションは4-7-9の20名で、
璃果、金川、早川、一ノ瀬、松尾、五百城、岩本、弓木、柴田
    菅原、田村、与田、井上、梅澤、筒井、川崎
        賀喜、久保、山下、遠藤
(秋元、飛鳥、鈴木、阪口、林out、璃果、松尾、五百城、一ノ瀬、井上、川崎、菅原in、Wセンターは久保&山下)

「【公式】「乃木坂工事中」# 399「乃木坂46ソングマスター前編」2023.02.19 OA - YouTube」より

 

 久保史緒里さん&山下美月さんのWセンターは、自分は過去に2回、20th(「シンクロニシティ」(2018年)。実際は白石麻衣さん)、26th(「僕は僕を好きになる」(2021年)。実際は山下さん単独)で、半ば期待を込めて予想をしていました。
 今回の選抜発表の途中、菅原咲月さん、川崎桜さんが2列目両脇となった時、Wセンターであることは既に発済みだったので、バランス上、井上和さんが1列目に行くことは考えづらく、案の定2列目センターでした。となると、久保さん&山下さん、遠藤さくらさん&賀喜遥香さんのどっちがWセンターだ!? と視聴者は色めき立ったでしょう。結果はご覧の通りです。
 32nd、予想としては大外しですが、5年前からの期待が叶って、むしろ嬉しいくらいでした。山下さん本人も語っている通り、もう3期生のセンターもないと思っていたので。*1
 以下、雑感。

  • 自分は32ndを5期生にとっての「夜明けまで強がらなくてもいい」(4期生3名のお披露目フロント)と捉えていたのですが、「シンクロニシティ」(3期生お披露目後、間を空けての3期生有力4名福神入り)だったようです。選抜入りがかなり固かった井上さん、川崎さん、菅原さんのみならず、五百城茉央さん、一ノ瀬美空さんまで選抜したのは結構びっくりしました(指標的に順当とはいえ)。選抜発表の途中で、この並びなら3列目センターは池田瑛紗さんかな少し思ったので、そうでないのもなかなか解釈が難しいところです。
  • 松尾美佑さん初選抜はさらにびっくりでした。抜擢だと思うので、がんばってほしい。
  • 佐藤璃果さん初選抜はある程度下馬評通りだったとはいえ、前作の悔しさが吹き飛ばせて、よかったですね。
  • 林瑠奈さんをなんで外したんだー!

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*1:山下美月公式ブログ「32( ˙꒳​˙ )」より
「この先表題曲でセンターをやることはないんだろうなと心のどこかで思っている自分がいました
昨年はセンター横のポジションに3シングル連続で立たせていただき
もう支える側のポジションに回る順番が来たと感じていたからです」
https://www.nogizaka46.com/s/n46/diary/detail/101188?ima=3202

乃木坂46 32ndシングル選抜メンバー予想

 2023/2/12の「乃木坂工事中」で、乃木坂46の32ndシングルが2023/3/22に発売されると告知された。乃木坂46はシングル発売ごとに表題曲のパフォーマンスメンバーを選抜する。選抜メンバーは2/19の「乃木坂工事中」で発表されるという。
 ブログは時代のログなので、メンバー選抜に関して自分の予想をメモしておく。

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情勢

 2022年に乃木坂46へ加入し、1年間はほぼ別動隊として活動していた5期生メンバーが何名選抜入りするか、が焦点でしょう。
 31stの「オンラインミート&グリート」の受付状況を見ると、鈴木絢音さん、岩本連加さん、梅澤美波さん、山下美月さん、与田祐希さんは既に不参加、30部完売メンバーが完売順に久保史緒里さん(2次)、遠藤さくらさん(2次)、賀喜遥香さん(2次)、田村真佑さん(2次)、井上和さん(2次)、早川聖来さん(3次)、五百城茉央さん(3次)、池田瑛紗さん(3次)、一ノ瀬美空さん(3次)、川崎桜さん(3次)、菅原咲月さん(3次)、金川紗耶さん(4次)、弓木奈於さん(4次)、柴田柚菜さん(6次)、富里奈央さん(6次)、中西アルノさん(6次)、林瑠奈さん(10次)、小川彩さん(10次)、佐藤璃果さん(12次)となっています。また25部完売の筒井あやめさんも同等。
 ここまででもう25名なので、基本的にこの中から選ばれると考えるのが順当でしょう。それにしても、30部完売メンバーが4期生10名、5期生9名で完全にグループの主力ですね。
 とはいえ、これまでの通例からするといきなり5期生を9名選抜投入は考えづらいです(パフォーマンスレベルのバランスが考慮されていると思われます)。

予想

フォーメーションは5-7-8の20名で、
弓木、璃果、柴田、岩本、筒井、清宮、早川、林
 田村、梅澤、遠藤、鈴木、与田、久保、金川
    賀喜、菅原、井上、川崎、山下
(秋元、飛鳥、阪口out、璃果、清宮、井上、川崎、菅原in、センターは井上)

 以下、予想のポイント。

  • 5期生は3名投入の予想としました。「夜明けまで強がらなくてもいい」での遠藤さん、賀喜さん、筒井さんの4期生3名フロントを踏襲したフォーメーションです。3名を井上さん、菅原さん、川崎さんとしたのは、5期生楽曲3作のそれぞれのセンターからの単純起用です。3次完売までこぎつけていますが五百城さん、池田さん、一ノ瀬さんは次作以降でしょう(しかし、枠がない……)。
  • 林さんは、前作は抜擢の要素がありましたけれども、31stできっちり30部初完売の実績を出したので残留でしょう。璃果さんも30部完売にタッチして、初選抜入りかなと思います。
  • 清宮レイさんは本格活動再開で選抜入りの予想です。

 前回31stシングルの選抜メンバー予想答え合わせは下記です。

buridaikon.hatenablog.com

【2023/2/20追記】
 答え合わせは下記です。

buridaikon.hatenablog.com

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(ジェームズ・キャメロン/2022)

 2009年に公開され、当時の世界興行収入歴代一位を記録した映画『アバター』の続編。
 前作にて、地球人から惑星パンドラの住人となったジェイク。彼はナヴィ族のネイティリと結婚し、三人の子を儲けていた。一方、パンドラの支配を企てる地球人たちが、その妨げとなるジェイクを狙っていると知り、一家は故郷の森を離れ、海の民が暮らす集落へと移住する。しかし、そこにも地球人の魔の手が延びるのだった――
 監督は『ターミネーター2』(1991)、『タイタニック』(1997)で知られ、前作『アバター』でも監督、脚本、制作を務めたジェームズ・キャメロン
 現時点で最も視聴環境がよいと言われるドルビーシネマ3Dにて鑑賞。前作は未見。

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 3Dの映像美が売りの本作だが、確かにすごい(まず、本編開始前の20世紀スタジオのロゴが3Dなことに驚いたけど、そこはどうでもいいですね)。
 かつての3D映画のように物がこちらに向かって飛んでくるような素朴なびっくり表現はもはやなく、映像の「奥行き」を表現するために3Dが奉仕する格好で、技法としての成熟を感じる。3Dというだけでなく、ドルビーシネマのためか、画面全体が驚くほど高精細。今後、映像美を追求する映画やゲームはこういう方向へ進化していくのだろうか。それとも、フォロワーを生まない孤高の系統になるのか……(山が空に浮いているような世界観も相まって、「10年後の〈ファイナルファンタジー〉もこうなるかな……」などと思いながら観ていた)
 また、タイトルから示唆される通り、海中描写はキャメロン監督が今回特にやりたかったことと思われ、ジェイク一家が初めて海の中へ飛び込む場面は、あまりに美麗で「はえー」と口に出しそうになってしまった。
 あと、本作では、実写の地球人が、CGで描かれた惑星パンドラやナヴィ族と一緒に映るのだが、そこもまったく違和感がなくて、素直に驚嘆した。CGの質感なども相当調整していると思われる。

 次にお話について。
 前作未見だが、それほど困ることはなかった。観たあとに知ったのは、クオリッチ大佐とスパイダーが親子ということくらいかな。

ネタバレしています。

 ストーリーの出来はあまりよくない、となんとなく見聞きしていたのであまり期待せずにいたところ、「自然と調和して暮らしていた部族のところへ、機械文明の帝国が攻めてきたので、ゲリラ戦で抵抗していく」という始まりで、さっきも言及した「ファイナルファンタジー」を思わせるというか、JRPGみたいで俺は別に嫌いじゃないよ……と思っていたけれども、後半はうーん。
 ジェイクの子供たちが捕まる、逃げ出す、でも誰かが逃げ遅れてまた捕まる、逃げないで助けに行かなきゃ、そしてまた捕まる、の繰り返しで、「お前らいい加減にしろよ」と思う。子供が(プロット上の)足手まどいになる映画って自分は好きじゃないし、きっと少なからぬ人が好きじゃなかっただろうで、ここ10年くらいはまったく見かけなかったけど、本作で久しぶりに遭遇し、舌を噛みながら鑑賞する羽目となった。
 戦闘シーンは迫力があって結構楽しく観られたのだけれども(たくさん爆発するし)、その間のドラマパートが退屈というか。いや、話の進展はあるんですが、ジェイクの息子ロアクが村の子供に嫌がらせされるくだりとか、疎開ものっていうんですかね。これまたここ10年くらいまったく見かけなかった、つまり、もはやすたれた話運びだと思っていたんだよ。いやはや。
 まあ、ストーリーが複雑だとせっかくの映像美に集中できなくなるわけで、敢えて紋切り型にしたといえば理解できなくもないが、それにしても、うーんである。

 というわけで、語り口は前時代的ながら、映像は超最先端で、総合的には観てよかったです。

乃木坂46「アトノマツリ」ミュージックビデオ(林瑠奈/2022)

 乃木坂46の31stシングル『ここにはないもの』のカップリング曲「アトノマツリ」は、メンバーである林瑠奈がミュージックビデオを作っており、これがとてもよかったのでちょっとびっくりしてしまった。

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 アウトラインから紹介すると、2022年12月に発売され、これまでグループの顔を務めてきた1期生齋藤飛鳥の卒業センターのシングル『ここにはないもの』はカップリングが6曲あり、「アトノマツリ」はその中の一つである。4期生メンバー遠藤さくら、賀喜遥香、北川悠理、林瑠奈、弓木奈於の5名が参加している、90年代風のヒップホップ調楽曲である。
 ミュージックビデオを製作(編集)した林は乃木坂46加入後に大学へ進学し映像制作を学んでいるらしく、その成果がファンの前に恐らく初めて登場した形である。

 まず、メインボーカルである北川と林のラップパフォーマンスがよい。メロウな味がちゃんと出ている。
 本作は秋元康作詞で韻を踏んだ歌詞でないため、二人の実力が分かりづらいかもしれないけれども、ライブで披露した別のラップがうまくてこれまたちょっとびっくりしてしまった。

 それから、メンバーの演技とも日常ともつかない浮遊感のある佇まいがよい。撮影時は、乃木坂46の公式MVを何度も手掛けた映像作家の伊藤衆人が「アドバイザリー」として同行しているのみで、他にスタッフはおらず、メンバー同士でスマートフォンを使って撮ったものを編集したという話だ。写真集『乃木撮』にも見られるような、「大人」がいないところでの「自然体」の雰囲気が大変微笑ましい(もちろん、アイドルなので鍵括弧つきの「自然体」ですが)。
 ミュージックビデオ全体として、「セルフメイキング」というだけあって、同人的というか、プロが作った他のMVと比べても、創作欲求が前に立っている感じがして、とてもよい。もちろん、プロの映像作家は注文通りにクオリティの高いものを作り、かつ、そこに自分ならではの味を混ぜるから偉いのだけれども、このMVは注文があったわけでなく、自分たちが作りたくて作った、というのが伝わってくるのだ。
 製作の経緯は北川のブログで述べられている。

実は私達、去年自分達でラップユニットを結成していたのです。

(中略)
まずは、2人でお互いの自己紹介ラップを試しに作ってみて、
今野さんに結成の旨を動画を送って報告して、
乃木坂スター誕生!のスタッフさんに、トラックの作り方を教えて頂いたり、
番組で披露させて頂きたいとお願いしに行ったり、実はお仕事の合間を縫って色々と頑張っていました。笑

2人で大きな目標を立てて、おおまかなスケジュールを決めて、
締め切りまでにお互い〇個リリックを書いてくるという宿題を出し合って、
お仕事の合間に練習して。
そうしていたらたくさんの方がご協力くださって、
番組で2回ほど披露させて頂けたり、
YouTubeで企画にして頂けたり、
今年はライブでも披露させて頂けたり。

そして今回、こうして楽曲やMVを作って頂けました。

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 乃木坂46でメンバーの発信からプロダクトになったものとしては、生田絵梨花松村沙友理が企画書を書いたというユニット「からあげ姉妹」や、生田と伊藤万理華がやはり自作した「遥かなるブータン」のミュージックビデオがある。「遥かなるブータン」の手作り感も味なのだが、比べると本作「アトノマツリ」のクオリティは目を見張るものがあろう。

 Youtubeのコメント欄を眺めると他楽曲に比べて外国人のコメントが多いように思われる。何語か分からなかったものもあって、Google翻訳にかけたらインドネシア語だった。インドネシアの人がこの楽曲を気に入るのは分かる気がする。

 最後に、映像を眺めながら一つのことが気になった。本MVは5人のメンバーが撮影者になったり被写体になったり気ままに切り替わっていく。ある程度コンテやリハはあったと思うし、別にワンカットというわけでもないのだが、誰がどこで撮影担当になるか、さすがにその場での指示出しは必要だろう。それはどうやったのか?
 メンバーはずっと歌っているか撮っているかしているので、指示ができたとすると同行していた伊藤衆人くらいしかいないのでないかと考えた。林が、リスペクトする伊藤をADのように使っていた、と想像するとちょっと面白い。*1

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*1:林瑠奈公式ブログ「ご報告」(2022.04.28)より
「大学で「きっかけとなった作品や監督は?」みたいなテーマで自己紹介したとき、伊藤衆人監督の話をしました。
挙動不審になりながら笑」
https://www.nogizaka46.com/s/n46/diary/detail/100216

『左様なら今晩は』(高橋名月/2022)

 一人暮らしのサラリーマン陽平の部屋に、突如女の幽霊が出現する。やけに親しげに話しかけてくる幽霊を、陽平は「愛助」と名付け、徐々に打ち解けていくが――
 出演は乃木坂46の久保史緒里、萩原利久ら。監督は1996年生まれで、『正しいバスの見分け方』(2015)にて初監督を務めた、高橋名月。

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 自分は乃木坂46を応援している。現役メンバーの主演作くらいは観ておこうと考えており、本作も観に行った。始めに「一般映画」としてどうか、次の「乃木坂46映画」としてどうか、を述べたい。

一般映画としての視点

 映画の舞台は広島県尾道市である。主人公の陽平は独身で、一人暮らしで、会社勤めで、標準語で喋っているため、関東出身だが全国拠点の企業へ入社後に尾道の支店に配属された、と推測される(作中、職場で「いつか東京へ戻るのか」というような話題があることも傍証だろう)。この設定にストーリー上どのような意味があるのだろうと思って映画を観ていると、特にないようなので肩透かしを食らったような気分になる。お話として、主人公は一人暮らしであることだけが要件と思われ、東京が舞台でも十分に成立する。尾道を舞台にしたいという先行的な欲求(もしくは要求)があったのかもしれない。とすれば、陽平もその辺りの出身として方言を喋らせてもよかった。
 それから、部屋で幽霊が姿を現すようになった時の、主人公陽平のリアクションが少し呑み込みづらい。自分がおなじ立場だったらどうするだろうか? まず、怖くて自室にしばらく近寄れないと思う。ビジネスホテルか漫画喫茶へ避難するのでないか。次に友達か家族を誘って様子を見に行くだろう。自分の頭がおかしくなっているのでないかという心配もあるので、第三者がいた方が安心だ。しかし、陽平の対応はそのどれでもない。怖がりつつも自室へ毎日帰宅し、霊能力者をあたるのかと思いきやそういうわけでもなく、実に状況に受け身である。幽霊と結構会話が通じるからかもしれない。としたら、逆にもうちょっと根掘り葉掘り事情を聞き出していいような気もする。
 陽平の独り言が多いことも気になった。普通の実写映画でモノローグ代わりに独り言を喋る人物がいると不自然に感じて没入できない。演劇とかなら大きな問題でないかもしれない(でも、独り言を言わせない演劇も別に珍しくない)。
 若い監督の映画に、テーマでないところでごちゃごちゃ言うのは、自分でも老害だなと思う。
 独身サラリーマンと可愛い幽霊のちょっととぼけた感じのコミュニケーションが見せ場なのだと解釈している。ただ、そういった超常現象を前提とした映画なら、むしろ丁寧に連れて行ってもらわないとちょっと引いてしまうところがある。
 よかったところも書こう。周囲の登場人物は概ねよかったと思う。顧客の老人に振り回されつつも飄々とした感じの不動産屋、霊能力をもつスナックのママ、など。

乃木坂46映画としての視点

 久保史緒里さんは雑誌「セブンティーン」の専属モデル、ラジオ「オールナイトニッポン」のパーソナリティも務めている、乃木坂46の人気メンバーの一人です。グループの中でも特に演技力が高いと言われており、これまで複数の演劇作品で主役級を務めていましたが、満を持しての長編映画初主演です。また、2023年のNHK大河ドラマ『どうする家康』への出演も決定しています。
 本作は久保さんのキュートさを前提、かつ全面に押し出した映画なので、久保さんのファンであればマストウォッチでしょう。久保さんの演技もよく、特に声を張り上げない場面のうまさは本作でも十分に発揮されていると感じます。
 恋愛映画なのでキスシーンはありますが、唇が触れ合うところは隠す演出となっています。『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019)で当時乃木坂46メンバーだった堀未央奈さんはがっつりしていました。堀さんがOKで久保さんがNGとなる境界線はなんなのでしょうか……(個人的には全然OKだと思いますが、こと久保さんに限っては悶死しそうな人がいそうなのも感覚的には理解できる……)

 

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『国際法』(大沼保昭/2018)

 ロシアによるウクライナ侵攻に関連して「国際法」というキーワードを何度か聞いた。曰く、「原子力発電所への攻撃は国際法違反である」など。自分は国際法というものがよく分かっていない。そういう法律があるのか?(ないような気がするけどあるのか?) 国際法に違反した国があったとして裁くことができるのか? そんな疑問を抱いて本書を手に取ってみた。
 著者の大沼保昭は日本の法学者。東京大学法学部教授などを歴任。2018年に病没。本書は遺作となる。

 まず「国際法とはなにか?」だが、

 国際法は、諸国が共にしたがうべき世界共通の規範を、諸国が明文で合意した条約と、「慣習国際法」といわれる不文法のかたちで示す。(第1章 国際社会と法)

 ということで、やはり「国際法」という名前の法典があるわけでなかった。
 国際法を構成する要素の一つ、「条約」についても知っているようで知らないことがたくさんある。例えば、条約の取り扱い方一つとっても国によってまちまちだ。

 条約に各国の国内法上いかなる地位を与えるかは各国が定める。①英国のように条約それ自体は国内で効力をもたず、議会が条約と同一内容の国内法を別個に制定する国、②多くのヨーロッパ大陸諸国のように、議会が条約を法律の形式で承認して国内効力を与える国、③日本のように公布により条約にそのまま国内法的効力をみとめる国、などがある。(第3章 国際法のありかた)

 もう一つの要素、「慣習国際法」は門外漢である自分になかなか理解が難しい。それはヨーロッパを中心に歴史の中で成立した国家間の慣行から生まれたもの、のようだ。この歴史的経緯について著者がいくぶん批判的である点も難しさを増しているところだ。

 たとえば海洋法上では一般には、慣習国際法では領海は三海里、それ以外は公海と考えられることが多かった。これは、英米という二大海上権力の慣行と主張を「慣習国際法」として主に英米の学者が定式化し、他の諸国は英米が有する圧倒的な海上権力という現実からこれに不承不承したがってきた、というのが実態である。他国が反対したくともその反対を英米に効果的にみとめさせることができず、事実上したがってしまっていることを「黙認」と構成し、それらの国々の同意があったものとみなすという法的なテクニックによって正当化してきたのである。(第3章 国際法のありかた)

 次に「国際法に違反した国を裁くことができるのか?」という点。
 察しの通りで、国家のさらに上に位置する機構というものが現状存在しないため、通常の犯罪のように裁く仕組みになっていない。では国際法に意味がないのかというとそんなことはないと著者は説く。国際法はあるべき理想を示したもので、国際法の理念自体に反対する国は少ない。その上で敢えて国際法に抵触しようとした際の有形無形のコストが、国家に国際法を遵守させるのだ。

 そういった総論ののち、本書は国家、人権、通商、戦争といった各論を取り扱っている。それぞれ興味深いが、ここでは当初の関心に基づき戦争のことを取り上げたい。
 戦争に関する最も重要な国際法の一つは1928年に締結された不戦条約である。世界史の教科書にも載っている内容だが、本書からも引用する。

 不戦条約第一条は、「締約国は国際紛争解決の為戦争に訴ふることを非とし、且其の相互関係に於て国家の政策の手段としての戦争を抛棄することを其の各自の人民の名に於て厳粛に宣言す」と明記する。このように、不戦条約は戦争を一般的に禁止した史上初の多国間条約という意味で画期的なものだった。だが、まさにそうした初の条約だったがゆえに、さまざまな限界も抱えていた。(第8章 国際紛争国際法

 不戦条約には武力行使自体を禁止する条項や違反時の制裁の仕組みがなかったため、自衛のような名目で日本の満州事変やイタリアのエチオピア侵攻が公然と行われた。しかし、それは許されるものでなかったという連合国を中心とした国際社会の信念もあった。そうした経緯もあり、第二次大戦後のニュルンベルク裁判、東京裁判は不戦条約違反が根拠の一つとなっている。
 不戦条約に対する見直しの位置づけになるのが、戦後に作られた国際連合国連憲章である。

 国連は、憲章第二条三項で紛争の平和的解決義務を、二条四項で不戦条約よりもはるかに徹底した戦争違法観を確立し、第六章の国際紛争平和的解決手続きと第七章の強制措置の仕組み(集団安全保障体制を詳細に規定する)によりこれを担保しようとする。(第8章 国際紛争国際法

 今般でのロシアによるウクライナ侵攻の通り、安保理常任理事国に拒否権があるなどするため、それでもなお戦争を防げているわけでないが、違反行為に対する国連の制裁が功を奏すケースもある。1966年の南ローデシア(現ジンバブエ)制裁、1977年の南アフリカ制裁はそれぞれ人種差別的な政治を変えることに成功した。

 国際法は本書でそれを解説しているわたし自身が情けなくなるほど弱く、欠陥だらけで、限界を抱えた法である。しかし、弱肉強食のルールが支配する国際社会で諸国の行動を規律する法が国際法でしかない以上、わたしたちはそれに賭けるしかない。(第9章 戦争と平和