韓国のインディーゲーム開発者Somiによる推理アドベンチャーゲーム。2024年1月時点で対応ハードはPCのみ。Steamで配信されている。
引退した警察官が過去の未解決事件を思い出す。「犀華」という少女が行方不明になった。母親が慌てふためく一方、父親はなぜか「探さないでほしい」と訴える。そして誘拐犯が名乗り出て自首するのだけれども――
2~3時間で終わるミニサイズのボリュームで、値段も800円と手頃。映画を1本観るような時間感覚でプレイできると思う。また、日本語版は登場人物がすべて日本人名に翻案されており、海外製ゲームだということをほとんど意識せずにプレイすることができる。
さて、ゲームシステムについてだが、プレイヤーはゲーム中、次のような操作をする。
まず、主人公である元警察官が過去に接した事件関係者との会話を思い出していく。会話内にはキーワードがあり、キーワードをクリックすると関連する新しい会話が連想的に思い出される。
しかし、主人公は老齢ゆえか記憶が混濁しており、その会話の相手が誰なのかも、時系列も、あやふやとなっている。プレイヤーは会話の主と時系列を正しく並び替える必要がある。
会話の主と時系列を正しく並び替えることができると、鍵ポイントが溜まる。6ポイント溜めると、事件の真相に近づく重要な会話を思い出すことができるようになる。
また、たまに重要な日付や会話を自分で推理して入力する、ちょっと難しいところも出てくる。
推理ゲームはいろいろあると思うけれども、「記憶の混濁した主人公」という設定と、「自分の記憶をジグソーパズルのように並び替えることで謎を解いていく」というゲームシステムが、きちんと噛み合っていて、非常にスマートに感じる。いいシステムだと思うが、恐らく一回勝負で使い切っているのも潔くてよい。
ただ、自分はゲームシステムについてこれ以上語ることができるような知識もないので、次に推理小説の観点で述べてみたい(このあとがっつりネタバレします)。
※ネタバレしています。
推理小説のネタとしては、「父、母、犀華の一家がいて、犀華が誘拐された」と思わせて、「犀華もその一家も二組いた」というもの。
別々の二人をあたかも一人の人間として視点人物(ひいては読者)に誤解させる、という手管、日本の推理小説では比較的ポピュラーで、開発者Somiは絶対日本の推理小説も読んでるよね~、とインタビューを探してみると……
Somi 主に小説からインスピレーションを受けています。ゲームのクレジットにもありますが、韓国の小説家キム・ヨンスが書いた「濡れずに水に入る方法」からインスピレーションを受けました、 この小説は、他人に対する無条件の優しさについて書かれています。また、ミステリー部分では三木彦連蔵の小説「白光」から、ドラマティックな部分では東野圭吾の小説「新参者」から多くのヒントを得ました。
はて、「三木彦連蔵」とは……
……
……
……いや、「連城三紀彦」だろうがよ!
それはそれとして、言われてみれば、東野圭吾の加賀恭一郎もの的な、聞き込みを行うことで事件関係者が隠していた事実を明らかにしていくというストーリー運びと、連城三紀彦風の叙述的なサプライズの組み合わせというのは、そのものズバリなスタイルである。
2~3時間でクリアできるボリュームが好ましく、ストーリーとゲームシステムがちゃんと噛み合っており、推理小説としてモダンなサプライズがある。非常に楽しめるゲームだった。