ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『死亡通知書 暗黒者』(周浩暉/2008)

 復讐の女神「エウメニデス」を名乗る者から、罪を犯しながらも逃げおおせた人間たちへ「死亡通知書」が送られた。そして、その予告通りに殺人が行われていく。あるいは衆人環視の下、あるいは人知れず、不可能とも思われるような犯行を「エウメニデス」は次々と成し遂げる。精鋭が集められた警察専従班は「エウメニデス」を追いつめることができるのか!?
 著者の周浩暉は中国江蘇省出身。2005年、本作に連なる羅飛シリーズの第一長編『凶画』で出版デビュー。本作を含む「暗黒者」三部作は中国でベストセラーとなり、ネットドラマ化もされた。『死亡通知書 暗黒者』が初の邦訳作品である。

死亡通知書 暗黒者 (ハヤカワ・ミステリ)

死亡通知書 暗黒者 (ハヤカワ・ミステリ)

 

 エンタテイメントに全振りしたミステリで素晴らしく面白かった。

 ※ネタバレしています。

 十八年前のある事件を再調査していた省都のベテラン刑事鄭郝明が殺害される。第一発見者である龍州市の刑事羅飛はたちまち鋭敏な観察力を発揮し、省都警察をあっと言わせる。羅飛は、鄭郝明を殺害したのは、省都警察でも機密扱いとなっている十八年前の〈四一八〉事件の犯人「エウメニデス」だ、と指摘する。この連続殺人事件を解決するため、羅飛と共にエリート刑事隊長韓灝、屈強な熊原、犯罪心理の専門家慕剣雲、技術に秀でた會日華が集められる。會日華の力で、鄭郝明のデジタルカメラの削除された画像から「エウメニデス」の隠れ家を突き止めるも、それは「エウメニデス」の術中に過ぎず、そこで彼らは新たな「死亡通知書」を受け取るのだった――

 という具合で、進行はスピーディー、目まぐるしくストーリーが展開していく。各場面もいちいちハッタリが効いていてよい。文章もダサさとすれすれのけれんがあり、例えば、美貌の犯罪心理専門家慕剣雲が登場する場面。

「これだけ重要な場なら、規律を最優先にするものだろう」屈強な男はいくらか不満をにじませ、韓灝に目をやって声を高くした。「内部で足並みが揃わなくて、敵に立ち向かえると思うか」
「三分待つ」韓灝はもう一度答える。その声は大きくはなかったが、異論を挟ませない頑なさと威厳を放っていた。屈強な男は目を伏せ、それ以上なにも言わない。
 そこに、部屋の外から声が聞こえた。「待たなくていいわ――ここにもういるから」

 今日日、美貌の犯罪心理専門家が、こんな登場します? という感じで、笑いつつも楽しんでしまう。このあと、慕剣雲が専従班メンバーの性格を一目で喝破していく場面もあったりするんですけど、完全にキャサリン・ダンスですよね……*1

 犯人によるトリックがいくつかあるのだけど、これがまた怪人二十面相かというようにシンプルで分かりやすいもので。第二の被害者韓小紅を殺害するための「おなじ格好をした奴を広場に数十名集めて警察を混乱させた上で、全然別の格好をした真犯人があっさり標的殺害」とかね。あと、犯人がいたと思しきホテルの部屋へ突入すると、警察が捕まえられていなかった凶悪犯罪者たち十二名の死体の一部が発見されるとかね。どうやって「エウメニデス」が犯罪者たちを捕まえたのかは全然明かされないのだけれども、それも味である。

 あとは、刑事たちが存外に素直で情熱的であり、あまり捻くれたところがないというのも、かえって新鮮。例えば、刑事隊長韓灝が大失敗した直後の場面。日本の警察小説だったら(横山秀夫とかさ)、偉い人やライバルからねちっこく因縁つけられるだろうところが、

 宋局長は韓灝の前に歩いていくと、その目をきつく見すえ、一言一句に固い意思をこめて言う。「きみはまだ〈四一八〉専従班の指揮官だ、忘れるなよ! やつとの戦いはまだ始まったばかりなんだ!」
 韓灝の身体が震える。迷いが断ちきられたようだった。両眼が光を持ち、輝きだす――怒りと固い決意。それとともに希望のこもった光だった。
 そう、この悪夢を振りきる手だては一つだけ、あいつを打ち負かし、徹底的に叩きつぶすことだ。そう頭に思い浮かべながら、歯を食いしばり、疲労の蓄積した背中をふたたび伸ばす。固く握られた拳にも力がみなぎった。

 とまるでスポーツマンガのように爽やか。

 終盤で「エウメニデス」が主人公羅飛に「悪の決断」を迫る場面、これなどは映画『ダークナイト』(クリストファー・ノーラン/2008)のジョーカーを思い起こした(関係ないだろうけど、「倉庫に男女二人が縛られもうすぐ爆弾が爆発するところを主人公が助けようとする」というくだりも少し似ているなと思った)。ラストの「俺たちの戦いはこれからだ!」的幕引きも推理小説ではめったに見ないので印象的。

 スピーディーなストーリー展開に、ディーヴァーだのなんだのの美味しいところを節操なく全部のせ。とにかく読者を飽きさせず楽しませようという心意気に満ち溢れていて、ちょっと感銘を受けてしまいました(個人的には推協賞を受賞した頃の森村誠一を思い出したり)。
 面白かった!

*1:『ウォッチメイカー』(ジェフリー・ディーヴァー)の中文版出版は2006年なので、本作執筆に先立って周浩暉が読んでいた可能性は十分にあり。ちなみに、邦訳よりも早いのですね……
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%82%91%E4%BD%9B%E7%91%9E%C2%B7%E8%BF%AA%E4%BD%9B
"《冷月》Cold Moon 皇冠出版社 2006年:ISBN:9789573322795"

『長江文明の発見』(徐朝龍/1998)

 マンガ『キングダム』(原泰久)で、楚、という国が登場する。「誰が至強か!? ドドンドドンドン 汗明!」の楚である。楚は春秋五覇戦国七雄にも数えられる強国だが、殷、周、他中原諸国とは異なる来歴をもつとも言われている。その辺りを詳しく知りたいと思い、本書『長江文明の発見』を手に取った。*1

長江文明の発見  中国古代史の謎 (角川ソフィア文庫)
 

 中国長江の下流中流、上流でそれぞれ栄えた文化、王国を、近年の考古学的発見を交えながら概説する一冊。
 著者の徐朝龍は、中国四川省出身で四川大学卒業後、京都大学大学院へ留学。茨城大学を経て、国際日本文化研究センター助教授着任。本書執筆後、同センターに関係する稲盛和夫の引き合いで京セラへ入社し、同社の中国ビジネスを担当した。 

 本書は長江文明として下流域の「良渚文化」(杭州市他)、中流域の「屈家嶺文化」(湖北省)、「呉城文化」(江西省)、上流域の「龍馬古城」(成都市)、「三星堆文化」(四川省)といった諸文化の他、呉、越、楚、巴、滇のような王国を取り上げている。
 今読むと、著者が黄河文明をライバル視するあまりの大仰な書き振りがやや読みづらい。例えば、下記のようなくだり。

 ともかく、中国におけるほんとうの意味での最初の都市文明である良渚文明は、当時の東アジア世界にとって曙光を放つような存在であった。そして、黄河流域の歴代中原王朝に抹殺され、歴史の霧に隠れて四〇〇〇年以上経った今、奪われた名誉を奪回し、稲作農業文明の輝きを世界にアピールすべく、良渚文明は長江流域の中でどこよりも先駆けて華麗に蘇ろうとしている。(角川ソフィア文庫P83~84)

 こういった箇所は斜め読みするとして、春秋戦国で活躍した呉、越、楚といった国々がどのように成り立ったのかを見ていきたい。
史記』によると、呉は周の王族が、越は夏の王族が建国したことになっているが、著者によると、前段として良渚文化が洪水かなにかで衰退したあと、その地の人々の一部が黄河流域へ移動し夏の成立の一翼を担ったとしており、『史記』の記述はその背景を伝説的に示したものではないかと語る。

 つまり、越民族が夏王朝との関係を主張したことは、良渚文明が夏文化と深くかかわり、両者のつながりが越国の時代になっても生き残っていたことを物語っている。越民族は昔の王朝の政治的な意向を背景にしたいというよりむしろ、現実として両者間に存在していた長い文化伝統上の一体性を強く意識していたということなのであろう。(同P191~192)

 しかるに、呉や越は単純に長江下流域文明を揺籃としたのでなく、夏や殷、周との交流によって成長した国、と言える。ただ、やはり生活様式等は中原と大きく異なっており、「「文身」すなわち「入れ墨」も呉越地方における重要な風習の一つになっていた」(同P193)、「これらの多くの生活習慣と文化伝統はいずれも長江流域における稲作農業に付随して形成されたものである。なお、以上に述べた呉越民族の生活習慣のいくつかに古代日本との共通点も見いだされる」(同P194)。

 一方、楚は『史記』では黄帝の孫が開いたとあるが、著者は先述の長江中流域にあった「屈家嶺文化」等を基盤とし、黄河流域の文化を取り込みながら周辺部族を吸収し、次第に強大になっていったと説く。

 そして数十の小国を強引に呑み込み、多くの民族を巧みに抱き込んだ楚国のような巨大な多民族国家はそれまでの中国の歴史に出現したことがない存在であった。(同P209 )

 楚の根拠地であった現在の湖北省湖南省少数民族自治州、自治県が少なからず存在しており、紀元前は況やだったとすると、楚は一種の「帝国」だったのかもしれない。そういった要素まではさすがに『キングダム』に描かれていない(七雄が他部族をも率いるという描写は、秦や燕でカバーはされている)。

 巴と蜀(古代蜀)の関係も面白く読んだ。巴は殷の時代の頃、長江中流域から現在の重慶市の付近にかけて興った。やはり中流域の文化が基盤になっているのでないかと著者は推測する。この巴は殷周革命の際、周側に付いて戦闘へ参加したらしい。やがて中流域で強大化した楚に圧迫され、四川盆地へ西進した。その頃の四川盆地は、三星堆文化を滅ぼした杜宇の王朝があったとされる。巴は治水技術を以って杜宇に成り代わり、開明王朝を開いた。こうして密接に結びつく巴蜀も、秦によって滅ぼされる。秦の始皇帝が中華統一を果たしたのも、四川盆地の農業生産力が大きな貢献をしたと言われている。

*1:なんだか松岡正剛みたいな本のセレクトが続いてしまう……

『天使にラブ・ソングを…』と「ガールズルール」

 Amazonプライムビデオのレンタルで、『天使にラブ・ソングを…』(エミール・アルドリーノ/1992)を初めて観た。既に古典といってもいいだろう作品なので、詳細は割愛。感じたことを二点ほど書き留めておく。

天使にラブ・ソングを… [Blu-ray]

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  • 発売日: 2012/12/05
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 一つ目は、観る前は、ウーピー・ゴールドバーグ演じる主人公デロリスが、破天荒なキャラクターでもって修道院を変えていく話、と勝手に思い込んでいた。が、修道女たちとの関りによってデロリス自身も変わっていく話、でもあった。従前のデロリスは場末のカジノ付き歌手とはいえなにか決定的な不全があったわけではないのだけれども、修道院でそのスキルやキャラクターを求められることにより居場所を見出し、それがまた修道院へもポジティブな影響を与えていく。異質な集団へ飛び込んだ風来坊が集団を変えていき、自分自身も変わっていく、という物語は古典中の古典で、劇中でも言及がある『サウンド・オブ・ミュージック』も類例だ。

 二つ目は、女性アイドルグループ乃木坂46のシングル「ガールズルール」(2013)のミュージックビデオを監督した柳沢翔が、本作に言及していたのを思い出した。

――ほかにもボツ案がありましたよね? 確か修道院を舞台にした……。
柳沢 そうそう! 西野さん、『天使にラブ・ソングを…』(1993年公開)という映画は知ってます?
西野 観たことないですね。
柳沢 (中略)その作品をモチーフに、赤いライダースに水色のドレスを着たダンサー役の白石さんが修道院で乃木坂のメンバーと出会って。みんな上品なんだけど、厳しい規律に縛られて生きる気力が無い。白石さんがダンスを教えることで、修道院のメンバーが自由に目覚めて自分達の中で革命を起こすみたいなストーリーを考えたこともありました。
「MdN EXTRA Vol.3 乃木坂46映像の世界」 映像監督×乃木坂46メンバー対談 柳沢翔×西野七瀬 より

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 引用の通りで直接的なモチーフとはしなかったようだが、改めて観ると、それでも「ガールズルール」は十分『天使にラブ・ソングを…』だよ! と思った。特に、『天使にラブ・ソングを…』の終盤、カジノ内でヴィンスたちに追われるデロリスを、シスターたちが助けるのをコミカルに描くあたりのテイストは、そのまま「ガールズルール」MV終盤のプールサイドでクラスメートたちが助けに来る場面のテイストに引き継がれていると思う(もっと言うと、おなじく柳沢翔がMV監督を務めた乃木坂46の「シャキイズム」と「サヨナラの意味」も、ある一人の人物が立ち上がるとで旧弊を打破する、という点ではおなじ話だと思う。ヤナショーはこういうストーリーテリングが好きなのですね……)。

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 もう一点メモ。アバンタイトルで、子供時代のデロリスが授業でシスターから使徒の名前を挙げよと言われ、「ジョン、ポール、ジョージ……リンゴ」と答える場面がある。これ、ポップスのことをなにも知らない人が注釈なしで観たらなんのことか分からないですね……そんな人いないか。それはそれとして、シスターは「リンゴ」の名が挙がったところで怒り出す。キリスト教に疎いのだが、タイミングからするとジョージまでは使徒の名前と被っているのだろうか? ジョン(ヨハネ)、ポール(パウロ)はいいとして、ジョージ(ゲオルギス)は使徒にいないよなあ……?

『エーゲ海を渡る花たち』全3巻(日之下あかめ)

 15世紀半ばのイタリア・フェラーラ。富裕な商家の娘リーザは、クリミアからやって来た少女オリハと出会う。妹と再会するためクレタ島を目指すオリハに、かねてからの冒険心を刺激されたリーザは、同行を申し出る。こうして、二人の少女の地中海を渡る旅が始まったのだった――
エーゲ海を渡る花たち』はウェブコミック配信サイトCOMICメテオで2018年から2020年にかけて連載された。

エーゲ海を渡る花たち(1) (メテオCOMICS)

エーゲ海を渡る花たち(1) (メテオCOMICS)

 

 15世紀のイタリアを舞台にしたマンガといえば、『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬実)や『アルテ』(大久保圭)があるけれど(日本に15世紀イタリアを舞台にしたマンガがこんなにあるのがそもそもすごいけど)、『チェーザレ』がイタリア戦争、『アルテ』がルネサンス期のフィレンツェを主な舞台としているのに対し、本作はイタリアの地中海貿易をテーマにしているのが特徴的である。

 なんといっても少女たちが旅をしている感じが全面に出ているのがよい。例えば、リーザとオリハが航海の過程で訪れるスパラタ(現クロアチアスプリト)。当時はヴェネツィア共和国支配下にあったが、ローマ帝国時代にディオクレティアヌス帝が宮殿を建設しており、現代でも残っている。

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エーゲ海を渡る花たち』(1)P162~163

「大昔の宮殿を基にした港町 言葉だけじゃ想像できなかった景色だわ フェラーラからアドリア海を渡った先に こんなところがあったんだ 見れてよかった」
「ええ…」

  普通の旅行の感想だが、それがいい
 一方、15世紀のヨーロッパを、いくら護衛がいるとはいえ少女二人で旅するのはさすがに治安的に無理ではないかと思うが、まあ、そこはそれ(作者も1巻のあとがきで恐らく編集の要請で「優しい世界」にすることになったのを匂わせている)。

  主人公の一人オリハがクリミア半島ジェノヴァ領出身、という設定が歴史ファンのツボを押さえている。また、主人公たちがコンスタンティノープルへ到着した際、アヤソフィアミナレットが一本だけ建っているというのも芸が細かい。

 東地中海から黒海を舞台にしているのが珍しいし、割とストレートに旅の楽しさが描かれており、キャラも可愛いし、面白かったです。

 以下は自分用に巻別の訪問地メモ。

巻数 訪問地(カッコ内は現在の地名) 現在の国
1巻 フェラーラ イタリア
ヴェネツィア
スパラタ(スプリト クロアチア
2巻 ラグーザ(ドゥブロヴニク
カッターロ(コトル) モンテネグロ
コルフ島(ケルキラ島) ギリシャ
カンディア(イラクリオン)
3巻 ネグロポンテ(ハルキス)
コンスタンティノープルイスタンブール トルコ
トレビゾンドトラブゾン

comic-meteor.jp

『わたしの名は赤』(上)(下)(オルハン・パムク/1998)

 新型コロナウイルスがなければ今年はウィーンへ行こうと思っていた。日本からウィーンへは直行便もあるけれど、最近、途中降機(ストップオーバー)に関心があるので、イスタンブール経由のターキッシュエアラインでもよい、などと計画を練っていた。ウィーンのついでにイスタンブールでもストップオーバーして観光というのはいいアイディアでなかろうか?
 しかし、観光するにもイスタンブールのことをあまりよく知らない。せっかくだからと本書を手に取ってみた。

 1591年、オスマン帝国下のイスタンブール。皇帝お抱えの細密画絵師が何者かに殺害される。一方、アナトリアからイスタンブールへ帰還した青年カラは、美貌の従妹シェキュレと再会する。やがてカラはイスラムの教義を揺るがしかねない絵師殺人事件へ巻き込まれていく。

 オルハン・パムクは1952年生まれのトルコ人作家。他に『雪』、『無垢の博物館』といった作品がある。本書を含む一連の著作で2006年にノーベル文学賞を受賞した。

 久々に、読み進めてもどういうお話なのか全然分からない小説を読んだ、という思いである。殺人事件が起きて犯人を当てようとするから推理小説のようでもあるし、恋愛小説のようでもあるし、美学に関する小説とも言える。一筋縄ではいかないから「文学」なのだろうが……

 以下、ネタバレしています。

 主人公カラは十二年前、細密画の制作者である「おじ上」の娘で従妹にあたる十二歳のシェキュレに恋をしていたが、不用意に思いを告げたことで放逐される。シェキュレはその後騎士と結婚し、二人の息子を儲けたものの、夫はアナトリアの戦争で行方不明となる。再会したカラとシェキュレは、ユダヤ人行商女エステルを配達役に手紙を交わし、付かず離れずの関係を始める。
 一方、「おじ上」の工房に所属する絵師の一人「優美」が行方不明となる。「おじ上」から調査を命じられたカラは、兄弟弟子の「蝶」、「コウノトリ」、「オリーブ」への聞き込みの過程で細密画の本質に関する問答を行う。その間に「優美」の惨殺された遺体が井戸の底から見つかる。
 殺人者はやがて「おじ上」をも手にかける。誰よりも早くこれを知ったシェキュレは、人生を変える好機とみなす。カラをけしかけ父の遺体を隠し、行方不明の夫との離婚と同時にカラとの結婚を成し遂げるのだった――

 ここまでが上巻のざっくりとしたあらすじである。

 本書で特徴的なのは、章ごとに語り手が次々と交替していくことだろう。カラやシェキュレはもちろんのこと、脇役である「おじ上」やエステルの他に、金貨や、絵に描かれた犬も語り手を担う(金貨が語り手といえば、宮部みゆきの『長い長い殺人』(1992)は財布が語り手だった)。それぞれがそれぞれの立場でしか物事を語らないため、人物や出来事は多角的に描かれ、そして、物語の輪郭はひたすら不明瞭となる。
 また、絵師たちが美学議論として細密画に関する挿話を次々と繰り広げていく。自分のような細密画に関する知識が皆無な人間にとっては、本当の話なのか本書がこしらえた話なのかも判然とせず、ますます迷宮の中をさまようような心持ちである。

 もう一つの特徴は、イスラム文明を世界の中心とする世界観だろう。舞台は16世紀後半、既にヨーロッパはルネサンスを通過しアメリカ大陸を征服している時代だが、本書の中でかの地は辺境の一つに過ぎない。中国も同様である。ヨーロッパや中国の文物の集積する「世界の中心」はあくまでイスタンブールなのである(とはいえ、本書に登場する絵師の中には、ヨーロッパを下に見つつ、ヨーロッパ絵画の「遠近法」に脅威を感じる、というアンビバレンスを抱く者もいる)。一種、価値の転倒のような、フレッシュな読み心地があるのだけれども、それは自分が日本人で日本や欧米の物語に慣れ親しんでいるからに過ぎず、トルコ人からすれば当たり前の話なのかもしれない。

 エンタテインメントとしてぐっとドライブがかかるような箇所もいくつかはあり、カラが絵師の誰かを殺人犯として差し出すか、もしくは自分が拷問を受けるか、を皇帝から迫られる場面などは、エンタテインメントとしても面白く引きつけられた(そういう場面ばかりでもないのが辛いところだが)。
 また、カラが「ユダヤ人の家」でシェキュレへ性行為を迫るさまを巧みに文学的に描く捧腹絶倒な場面なども用意されており、小難しいばかりの小説でもない。

 本書は細密画がテーマの一つである。イスタンブールトプカプ宮殿宝物館やトルコイスラム美術館にはこの時代の細密画が展示されているのだろうか。本書を読んで、改めてイスタンブールへの興味が高まった。

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(国立西洋美術館/2020)

 西洋美術の代表的なミュージアムの一つであるロンドンのナショナル・ギャラリーのコレクションを借り受けた特別展。ルネサンスからポスト印象派までを幅広く展示している。
 当初は2020年3月から6月までの会期だったが、新型コロナウイルスの影響で6月から10月に会期の変更があった。いわゆる「密」を避けるためチケットはすべて日時指定制となっている。東京では国立西洋美術館、大阪では国立国際美術館で開催。

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 展示作品数は61点だが、西洋絵画史のど真ん中という感じで、見応えは十分だった。また、これは最近の定番なのだろうか、例えば、イギリスとスペインは海上の覇権を競うライバルだったが、スペイン独立戦争でのイギリスの支援をきっかけにスペイン絵画がイギリスへ流入するようになったなど、イギリスのおける各国絵画の受容がイギリス史と共に語られる解説も興味深く読んだ。
 以下、気になった作品を個別に(画像があるものはWeb Gallery of Artへリンク)。

 全体としてさすがに西洋絵画の本場は違うというか、ど真ん中の作家作品が並べられていて、でも、ヴァージナルの前に立つ女でなく座る女だったりして、やっぱりど真ん中のど真ん中が見たかったらロンドンに来てねということなのかもしれない。パオロ・ウッチェロから始まってゴッホのひまわりで締めるのも、構成の妙があり、よかった。
 日時指定制に関しては、自分が訪問したのは休日の夕方だったけれど、混雑度合いは平日の夜間程度という印象。立ち止まって一つの絵を見続けたりするのはちょっと難しいかなというくらい。密かどうかでいうとやや密。さすがに全員マスクは着用していたけれど、喋っている人もいるにはいた(まあ、美術館で絵を見て感想を言ったらいけないのかよというのもあります)。

 話は逸れるが、ついでに常設展を覗いたところ、2018年に訪れた時に比べ細かいところでいろいろ配置換えがあったようだ。例えば、以前、ハマスホイの『ピアノを弾く妻イーダ』があったところが、ロヴィス・コリントという人の『樫の木』という絵になっていた。解説によると印象派の影響を受けたドイツの画家らしい。

 変わったといえば、上野駅も変わっていた。公園口の改札を出ると以前はすぐに横断歩道があったけれど、車道がなくなりそのまま上野公園の敷地のような感じになっていた。エキュートも改装のさなかのようで、改札外の2階に新しく騒豆花が入っていた。

 

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「乃木坂46時間TV」(2020)タイムテーブル自分用まとめ

 2020/6/19(金)19:00~2020/6/21(日)17:00に「乃木坂46時間TV アベマ独占放送「はなれてたって、ぼくらはいっしょ!」」がAbemaTVで生配信された。
 自分があとで参照できるよう、実際のタイムテーブルを簡単にまとめておく。自分でメモしたものなので過不足、誤りがあるかもしれない(太字は事前告知のあった公式コーナー)。

DAY1(2020/6/19(金))

19:00~ オープニング
19:54~ 2ショットトーク(北野、久保)
20:02~ 2ショットトーク(寺田、林)
20:25~ 乃木坂電視台(鈴木、秋元、飛鳥、久保、遠藤)
22:01~ 新内眞衣のマイウェザー(新内)
22:07~ 熱闘! Nリーグ 乃木雀(秋元、生田、高山、和田)
23:06~ 乃木坂電視台金川、早川、樋口)
23:58~ いきなりエクササイズ! 46時間後に那須川天心
24:09~ 山崎怜奈のざきウェザー(山崎)
24:17~ 久保ちゃんねる(松村/真夏の全国ツアー2018「命の真実」、新内/アンダーライブ セカンド・シーズン「君の名は希望」)
24:29~ 朝まで乃木坂人狼(秋元、生田、中田、樋口、星野、和田、松村、純奈、北野、堀、山崎、渡辺/天の声:早出明弘)

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乃木坂46時間TV アベマ独占放送「はなれてたって、ぼくらはいっしょ!」」より

DAY2(2020/6/20(土))

7:33~ 新4期生で朝まで時間を繋ごう
8:18~ 乃木坂電視台(吉田、梅澤、岩本、阪口、掛橋)
9:51~ 尺つなぎ2ショットトーク(北野、久保)
10:01~ いきなりエクササイズ! 46時間後に那須川天心
10:13~ 3期 3期生運動能力女王決定戦
11:36~ 4期 お菓子の家を作ろう!
11:54~ いきなりエクササイズ! 46時間後に那須川天心
11:59~ 遠藤さくらのさくウェザー(遠藤)
12:08~ 乃木坂電視台(田村、清宮、山下、寺田、向井)
13:29~ 久保ちゃんねる(高山/Merry Xmas Show 2016「生まれたままで」、秋元/真夏の全国ツアー2019「魚たちのLOVE SONG」)
13:49~ オオカミちゃんは食べられない
15:16~ 乃木坂電視台(楓、和田、高山、北野、純奈)
16:56~ 久保ちゃんねる(北野/真夏の全国ツアー2017「嫉妬の権利」、久保/真夏の全国ツアー2019「日常」
17:19~ 新内眞衣のマイウェザー(新内)
17:33~ 尺つなぎ2ショットトーク(梅澤、山下)
17:43~ 尺つなぎ2ショットトーク(高山、璃果)
17:00~ 熱闘! Nリーグ 乃木雀(北野、新内、寺田、渡辺)
18:37~ 乃木坂電視台(賀喜、堀、与田)
19:44~ 久保ちゃんねる(山下/3・4期生ライブ2019「不眠症」、生田/真夏の全国ツアー2018「光合成希望」)
20:10~ いきなりエクササイズ! 46時間後に那須川天心
20:14~ 生であつまれ! どうぶつの森(秋元、星野、堀、阪口、楓、山下、賀喜)
21:13~ いきなりエクササイズ! 46時間後に那須川天心
21:26~ 武井壮登場
21:31~ 1期 9年目の同期会
22:42~ 声優と夜あそび
23:58~ 久保ちゃんねる(梅澤/3rd YEAR BIRTHDAY LIVE「ガールズルール」、堀/真夏の全国ツアー2019「自由の彼方」)
24:08~ 2期 生で修学旅行の夜
25:04~ 朝まで乃木坂人狼(梅澤、阪口、楓、向井、山下、久保、賀喜、金川、田村、早川/天の声:早出明弘)

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乃木坂46時間TV アベマ独占放送「はなれてたって、ぼくらはいっしょ!」」より

DAY3(2020/6/21(日))

7:33~ 新4期生で朝まで時間を繋ごう
8:29~ 乃木坂電視台(理々杏、中村、中田、星野)
9:40~ マツミン(松村、星野、柴田、与田、筒井)
10:00~ 尺つなぎ2ショットトーク(星野、松村)
10:06~ 生であつまれ! どうぶつの森(中田、山崎、松村、理々杏、中村、黒見、矢久保)
11:10~ 久保ちゃんねる(大園/「Sing Out!」発売記念選抜ライブ「平行線」、星野/真夏の全国ツアー2019「自惚れビーチ」)
11:21~ 新内眞衣のマイウェザー(新内、高山)
11:54~ 4期 お菓子の家を作ろう!
12:30~ 乃木坂電視台(山崎、生田、矢久保、筒井、渡辺)
14:06~ 熱闘! Nリーグ 乃木雀(梅澤、久保、阪口、向井)
14:36~ 乃木坂電視台(柴田、新内、松村、北川、大園)
15:37~ 久保ちゃんねる(賀喜/真夏の全国ツアー2019「ガールズルール」、遠藤/8th YEAR BIRTHDAY LIVE「キスの手裏剣」)
15:48~ はなれてたって、ぼくらはいっしょ! スペシャルライブ(「裸足でSummer」、 「ハウス」、「ダンケシェーン」、「おいでシャンプー」、「君の名は希望」、「アナスターシャ」、「毎日がBrand new day」, 「I see...」, 「Sing Out!」、「世界中の隣人よ」)

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乃木坂46時間TV アベマ独占放送「はなれてたって、ぼくらはいっしょ!」」より

 

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abema.tv

 

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