西洋美術の代表的なミュージアムの一つであるロンドンのナショナル・ギャラリーのコレクションを借り受けた特別展。ルネサンスからポスト印象派までを幅広く展示している。
当初は2020年3月から6月までの会期だったが、新型コロナウイルスの影響で6月から10月に会期の変更があった。いわゆる「密」を避けるためチケットはすべて日時指定制となっている。東京では国立西洋美術館、大阪では国立国際美術館で開催。
展示作品数は61点だが、西洋絵画史のど真ん中という感じで、見応えは十分だった。また、これは最近の定番なのだろうか、例えば、イギリスとスペインは海上の覇権を競うライバルだったが、スペイン独立戦争でのイギリスの支援をきっかけにスペイン絵画がイギリスへ流入するようになったなど、イギリスのおける各国絵画の受容がイギリス史と共に語られる解説も興味深く読んだ。
以下、気になった作品を個別に(画像があるものはWeb Gallery of Artへリンク)。
- 『聖エミディウスを伴う受胎告知』(カルロ・クリヴェッリ/1486)。初期ルネサンスの画家で、細部まで緻密に描く画風が魅力的。
- 『天の川の起源』(ティントレット/1575頃)。ギリシャ神話に基づき、乳児のヘラクレスがヘラから吸おうとして噴き出た母乳が天の川になった、という場面が描かれているのだけど、現代の視点で見るとシュール過ぎというか、嫌な人は嫌かもしれない。
- 『ヴァージナルの前に座る若い女性』(ヨハネス・フェルメール/1670~1672頃)。ナショナル・ギャラリーで有名なのは『ヴァージナルの前に立つ女』だと思いますが、こちらは座る女です。
- 『ヴェネツィア:大運河のレガッタ』(カナレット/1735頃)。カナレットは18世紀ヴェネツィアの都市風景画家。ヴェネツィアのフェスティバルでたくさんのレガッタが出張っている様子が華やかに描かれています。カナレットの絵画は分かりやすく楽しめて、グランドツアーでイタリアを訪れたイギリス人に好んで収集されたというのも分かります。
- 『アンティオキアの聖マルガリータ』(フランシスコ・デ・スルバラン/1630~1634頃)。スルバランなんて生まれて初めて見たな。フランシスコ・デ・スルバランはバロック期のスペインの画家ですが、ベラスケスやムリーリョに比べると知名度が少し下がるかもしれません。
- 『コルオートン・ホールのレノルズ記念碑』(ジョン・コンスタブル/1833~1836頃)。コンスタブルも初めて見た。結構荒々しい筆致なのですね。
- 『アンジェリカを救うルッジェーロ』(ドミニク・アングル/1819~1839頃)。この絵を見ていた若い男女のカップルが「1810年くらいだと新古典主義か」というようなことを話していて、アングルは知らないけど新古典主義は知っているのかとかえって驚いた。
- 『ひまわり』(フィンセント・ファン・ゴッホ/1888)。自分はこれまであまりゴッホがぴんと来ていなかったのだけれども、ルネサンスから一通り西洋絵画史を経て『ひまわり』に至ると、なるほど、厚塗りで立体的とすらいえる筆致に躍動感があり、ゴーギャンがフレッシュに感じたのも分からんでないなと思った(自分をゴーギャンになぞらえるな)。
全体としてさすがに西洋絵画の本場は違うというか、ど真ん中の作家作品が並べられていて、でも、ヴァージナルの前に立つ女でなく座る女だったりして、やっぱりど真ん中のど真ん中が見たかったらロンドンに来てねということなのかもしれない。パオロ・ウッチェロから始まってゴッホのひまわりで締めるのも、構成の妙があり、よかった。
日時指定制に関しては、自分が訪問したのは休日の夕方だったけれど、混雑度合いは平日の夜間程度という印象。立ち止まって一つの絵を見続けたりするのはちょっと難しいかなというくらい。密かどうかでいうとやや密。さすがに全員マスクは着用していたけれど、喋っている人もいるにはいた(まあ、美術館で絵を見て感想を言ったらいけないのかよというのもあります)。
話は逸れるが、ついでに常設展を覗いたところ、2018年に訪れた時に比べ細かいところでいろいろ配置換えがあったようだ。例えば、以前、ハマスホイの『ピアノを弾く妻イーダ』があったところが、ロヴィス・コリントという人の『樫の木』という絵になっていた。解説によると印象派の影響を受けたドイツの画家らしい。
変わったといえば、上野駅も変わっていた。公園口の改札を出ると以前はすぐに横断歩道があったけれど、車道がなくなりそのまま上野公園の敷地のような感じになっていた。エキュートも改装のさなかのようで、改札外の2階に新しく騒豆花が入っていた。