ぶりだいこんブログ

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『ミッドサマー』(アリ・アスター/2019)

 アメリカの大学生男女五人がスウェーデン郊外の夏至祭を訪れる。白夜の下で花々が咲き誇る美しい光景が広がるも、やがて想像を絶する恐怖が訪れる。
 監督は『ヘレディタリー/継承』で一躍ホラー映画の新しい才能として注目されたアリ・アスター

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 ※ネタバレしています。

 若者が、田舎に行って、調子に乗ったせいで、酷い目に遭う、というのはホラー映画の定番だ(『死霊のはらわた』、『ホステル』等々)。本作『ミッドサマー』も若者が田舎へ行くが、さほど調子に乗っていないにも関わらず、酷い目に遭う。厳密には、マークは村の大事な木に立小便したり、ジョシュは門外不出の教典を盗み撮りしようとしたりしたけど。でも、クリスチャン、サイモン、コニーは特になにもしていないし、マークやジョシュだって前述のようなことをしようがしまいが殺されていただろうことは明白である。前作『ヘレディタリー/継承』もこれといってなにも悪いことをしていない一家へ突如として災厄が訪れるという話だったので、これはアリ・アスター監督の持ち味なのだろうし、だから怖いとも言える。淡々とした話運びのまま、ちょっと信じられないようなグロテスクな場面をさらっと挿入するところも、アリ・アスター監督らしい。

 とはいえ、『ヘレディタリー』の時と違うのは、長編日本公開二作目ということで、アリ・アスター監督の手の内がある程度明らかになっているという点だ。分かって観るとちょっと笑ってしまうところもある。村の言い伝え――若い娘が恋を成就させるおまじない――を描くタペストリーを順番にゆっくり映していくと、娘が相手に食べさせる食べ物に陰毛入れたり、飲み物に経血入れたりみたいな絵がさらっと差し込まれる場面とかさ。
 あとはマジックマッシュルームを食べたりして幻覚を観る場面があるのだけれども、足が地面の草と一体化したりとか、あとは視界の端に映るものが微妙にうねうね動いたりとか、なかなかうまい。やっぱりアリ・アスターもクスリやったことあるのかな~と少し残念に思ったけれど、自分ごときでもうまいと判断できるから、まあ、やってなくてもああいうアイディアはもてるのでしょう。

 アリ・アスターのホラー要素以外での持ち味は、不穏な空気を醸し出し、緊張感を高めていったところで、ふっと場面転換をする演出もあるだろう。もちろん、ホラー場面でも活きるのだが、日常のとほほ場面でも効果を発揮している。個人的に好きなのは、冒頭の、クリスチャンがダニーに黙って友達とスウェーデン旅行を計画していたのが発覚する場面。精神的に不安定なダニーはクリスチャンを問い詰めつつも、「別に行くなって言いたいわけじゃなくて、どうして黙ってたのかを話し合いましょう!」みたいな一番面倒くさい感じになっており、クリスチャンも「もう今日は帰るよ」みたいな感じで話を終わらせようとする。二人の言い合いがやがて口論になろうかというところで、ふっとカットが入り、日が改まってクリスチャンが友達とたむろっている場面に切り替わる。そして、クリスチャンがおもむろに「ダニーもスウェーデンに誘ったんだ」。友達も、我々観客も「えー!?」である(笑)。友人らも「でも、ダニーもスウェーデンなんて来ないよな」、「うん、来ないに決まってる」と動揺しているのがまた笑いを誘う。そこにダニーが現れて室内にぎこちない空気が漂うのもよい。亡くなった家族のことを持ち出され、ダニーが思わず室内のトイレに駆け込むところを真上から描き、トイレに入った途端、そこは機内のトイレ――そう、もう彼らはスウェーデンへの途上なのだ――という映像的な演出もよかった。

 総じて、二作目ということで、ホラー的な驚きという意味では減じているところがやむを得ないとはいえ、アリ・アスターの持ち味はホラー以外でも活きるのではないかなと思いました。もちろん、こういうホラーは今のところ他にないので、三作目もホラーだったとしてもウェルカムなのですが。

 

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