ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『ヘレディタリー/継承』(アリ・アスター/2018)

 祖母の死をきっかけに、一家が恐怖の底へと転落していくさまを描くホラー映画。
 監督は本作が長編デビューのアリ・アスター。出演はトニ・コレットガブリエル・バーン、アレックス・ウォルフ、ミリー・シャピロ。

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 ※ネタバレしてます。

 これといってなにか悪いことをしたわけでもないのに、主人公一家が次々といやーな目に遭っていくのが怖い。これ、一家がなにか禁忌を破ってしまったとかのために「こと」が始まったわけではないというのがポイントで、「リゾートバイト」とか「姦姦蛇螺」とかみたいに語り手が入るなと言われたところに無断で侵入したから災厄に見舞われるとかいうなら、怖いけれどまだ腑に落ちるわけですが、『ヘレディタリー』の一家はなにかをしたわけではないんですね。ただ単に祖母が亡くなっただけ。それをきっかけにして地獄に突き落とされるというのは本当に理不尽で、だからこそ怖い。
 起こることも、祖母の墓が掘り起こされるとか、娘が鳥の死骸をハサミで首チョンパするとか、お母さんが手仕事のミニチュアハウスで祖母が孫娘に授乳している場面を再現するとか、決定的ななにかではないんだけどなんとなく不穏な感じ、というのが絶妙。
 なにが原因か分からないけれど、どうもなにか「こと」(それもよくない系の)が進行しているようだ、という怖さは三津田信三の、「向こうから来る」(『どこの家にも怖いものはいる』所収)とかの風味もある。
 中盤に発生する娘の首チョンパ事件は、娘が鳥を首チョンパしたからなのかなんなのか因果がはっきりしないし、最初の犠牲者がホラーでは比較的安全とされる一家の末娘というのもショックだし、やっちまったあとの長男の現実逃避も妙に生々しくて嫌だし、最終的な見せ方である「路上に転がった娘の頭部に蟻が群がっている」というのも実に嫌らしい。
 終盤、祖母の遺品を調べると、生前の祖母が一家に対してなにかを仕組んでいたらしいことが分かり、これもぞっとする。それでもなお、なにかオカルティックなことが起こっているのか、それとも一家のお母さんが狂ってしまっているのか、はっきりさせないところもうまい。
 だからこそ、ラスト5分で欧米ホラーでよくあるところの悪魔の話に帰結させてしまったのは、ちょっと残念だ。祖母が悪魔を召喚するためにあれこれ仕掛けていたと明確にすると、これまでの出来事がある程度腑に落ちてしまうので、恐怖が薄れてしまう。ただ、これはもしかしたら、観客を少しは恐怖から解放させて劇場をあとにしてもらおうという監督の配慮なのかもしれない。
 いずれにせよ、全編これでもかという不穏な空気と、いやーな描写と、陰鬱な劇伴で、ぎんぎんに観客を追い込んでいくスタイルは見事。ポジティブな意味で「これ、早く終わんないかな……」という気持ちで鑑賞していました。