ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『ボーダー 二つの世界』(アリ・アッバシ/2018)

 税関に勤める女性職員ティーナ。ある特異な能力を以って職務にあたっているが、その風貌ゆえに交友は限られている。ある日彼女は税関でヴォーレと名乗る男を取り調べ、なにかを感じるが……
 スウェーデン発の映画。監督はイラン系スウェーデン人のアリ・アッバシ。原作は『僕のエリ 200歳の少女』も手掛けたヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。出演はエヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフら。

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 ※ネタバレしています。

  主人公ティーナは鋭敏な嗅覚をもっている。それにより税関で密輸を図る人間を捕まえることができる。そして、共通点を感じるヴォーレ共々、なぜだか犬に吠えられ、それ以外の動物(トナカイなど)とは親しみ、野の虫を食べる。映画の雰囲気からして、これはなにかの動物の化身ということなのだろうか? 嗅覚が強いということは犬か? しかし、犬は虫を食べたりしない。なんだろう、分かりそうで分からないという感覚のまま映画は進んでいく。
 やがて、二人が雷を異常に怖がるという特性を見せるに、もしやこれは日本人が知らない北欧特有の架空の生物ではないかと思う。案の定、二人はトロールだった!(確かにトロールには雷を恐れたり、あとはのちに出てくる「取り替え子」の習性があるようだ)*1

 本作が独特の手触りなのは、「トロールが人間の振りをしてひっそりと暮らしていました」という、言ってみればおとぎ話みたいなシチュエーションを、ほのぼの性ゼロ、半ばホラー寄りに描いているところによるだろう。ティーナがヴォーレの部屋へ侵入し、冷蔵庫の中身をそっと確かめる場面などは、完全にホラーの演出だ。おとぎ話を深刻なトーンで描くという点で、自分は『ダークナイト』(クリストファー・ノーラン/2008)などを想起した。
 本作は主人公二人のビジュアルがなければまったく成立しない。いったいこのような役者をどうやって見つけてきたのか……と思っていたら、二人とも特殊メイクだったんですね。冷静に考えればそりゃそうだ。ただ、劇中では特殊メイクだとまったく分からないし、鼻をひくひくさせる仕草とか(全然わざとらしくなくて、ちょっと鼻をすするような感じなのがうまいんだよな)、裏腹に孤独に嘆く場面とか、完全にそのような人にしか観えなくて、素晴らしい。
 原題の”Gräns”は"limit"や"frontier"の意のようで、英題"Border"はそれを踏まえて付けられているのだろう。ティーナが務めている税関もタイトルを暗示しているというのを読んで、なるほどと思った。

 他で観られないタイプの映画であることは間違いないので、関心があるのであれば観ておいて損はないと思われる。

*1:https://en.wikipedia.org/wiki/Troll
"A Scandinavian folk belief that lightning frightens away trolls",
"Changeling, in Scandinavian folklore, a troll child swapped for a human baby"