ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『ミステリと言う勿れ』(9)(10)と多重誘拐ミステリ

 田村由美のミステリーマンガ『ミステリと言う勿れ』、菅田将暉主演で月9のドラマも始まったようですね。1クールの期間ではカバーされないと思いますが、原作最新の9~10巻は誘拐事件を扱っています。ユニークだなと思ったのは、「子供を誘拐された親が身代金代わりに他の子供の誘拐を強要される」というシチュエーション。誘拐を扱った推理小説は数あれど、自分はこの切り口を読んだことがなかったので感心しました。
 これ、どうなるんだろうとわくわくしながら読んでいると、いつの間にか関係者が一堂に会し、過去に起きたとある殺人事件の謎解きが始まっているのにもびっくりです。「episode2」もそうですが、『ミステリと言う勿れ』はどうも「二部構成」「Bパートはみんなで謎解き」という傾向にあります。
 一方、Aパートのフレッシュな誘拐シチュエーションをもう少し掘り下げてほしかったなという気持ちもあり、だからというわけでもないですが、このような多重誘拐ものの推理小説作品をいくつか取り上げてみたいと思います。「多重誘拐」って今自分で作った言葉ですけど。作中で複数の誘拐事件が描かれている、くらいの意味合いで。

『複合誘拐』(大谷羊太郎/1980)

 テレビ局でワイドショーアシスタントのオーディションを受けていた社長令嬢が誘拐された。犯人一味の男は身代金500万円を奪ってバイクで逃走。警察は男を追い詰め令嬢の居場所を白状させるも、そこに彼女の姿はなく、やがて次の身代金が要求される――
 一つの事件に複数の陰謀が絡み合い、誰が敵で誰が味方か分からない、バトルロイヤルのような誘拐ミステリ。被害者の社長令嬢はみんなに恨まれ過ぎ!

造花の蜜』(連城三紀彦/2008)

 小川加奈子はスーパーで息子の圭太を誘拐されかかる。加奈子は犯人に心当たりがあった。離婚した夫なのではないか……? 一ヵ月後、圭太は本当に誘拐される。が、誘拐犯からの電話は奇妙なものだった。「あの子が帰りたくなったらいつでも帰す。金はいらない」。やがて犯人が明らかになるのだが――
 連城三紀彦といえば美しい文体と裏腹にクレイジーなどんでん返しをかます唯一無二の味わいをもった作家ですが、本作『造花の蜜』も誘拐ミステリとしてちょっと他で見ない逆説的どんでん返しをかましてきます。

『ザ・チェーン 連鎖誘拐』(エイドリアン・マッキンティ/2019)

 この記事を書こうと考えた時、著名な誘拐ミステリを失念していないか念のため調べていたところ、恥ずかしながら本作を初めて知りました。
 マサチューセッツ州に住む十三歳の少女カイリーが誘拐される。シングルマザーであるレイチェルへ誘拐犯からの電話。「お前も誰かの子供を誘拐しろ。そうすれば娘は解放する。自分たちも子供を誘拐されている。お前は既に〈チェーン〉へ組み込まれたのだ」と。
「子供を誘拐された親が身代金代わりに他の子供の誘拐を強要される」というわけで『ミステリと言う勿れ』とほぼ同シチュです。こういう作品があったんですね。驚きました。ただ、本作は『ミステリと言う勿れ』と比べてひどく陰惨な印象です。子供の命を盾にモラルを踏み越えざるを得ない主人公の辛さが丹念に描かれます。これ、ある種の「いじめ」なのですよね。例えば、万引きを強要するいじめって嫌らしいと思いますが、それと同種の不快感というか(『ミステリと言う勿れ』は青砥刑事が早々に「他人の子の誘拐など、人として絶対やらない!」と言い切ってくれるので安心感がありますね……)。一方、下巻は割と直球エンタメ路線になるのでだいぶ気楽に読むことができます。

 

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