ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『悪童たち』(紫金陳/2014)

 義理の両親を殺害した男。完全犯罪となるはずだった。現場を目撃していた子供たちがいた。子供たちは金のために男を脅迫する。男は子供たちを葬り去ろうとする――
 紫金陳は中国の推理作家。2019年に「謀殺官員(官僚謀殺)」シリーズの一作『知能犯之罠』が初邦訳された。本作『悪童たち』が邦訳第二作となる。中国の動画配信サービス愛奇藝(iQIYI)で『隠秘的角落』として連続ドラマ化された。

 ノワール倒叙ミステリがストレートにドッキングした独特の味わいで、両ジャンルが共に好きな人にはおすすめ。

※以下ネタバレしています。

 中国寧波市の中学二年生朱朝陽は、勉強ができるもののクラスの女子から理不尽ないじめを受けている。父親は妻子を捨てて若い女へ走り、朱朝陽は貧しい暮らしを強いられていた。ある日、朱朝陽の元へ幼馴染の丁浩とその妹分、普普が姿を現す。彼らは北京の孤児院にいたが、虐待に耐えかね脱走してきたのだった。着の身着のままの彼らに朱朝陽は母親に隠れて同居を許す。三人は遊びに行った山で、男が老夫婦を崖から突き落として殺害するのを偶然撮影してしまう。
 その男、張東昇は義父母、妻を順番に殺害し、妻の資産を奪おうとしていた。妻、徐静は張東昇の計画を嗅ぎ取り、従叔父で元警察官の大学教授厳良へ相談する。
 丁浩と普普は脅迫して大金を得ようと張東昇へ接触する。そんな中、朱朝陽は異母妹の朱晶晶と口論になった挙句、窓から突き落として死なせてしまう。

 邦訳前作『知能犯之罠』は読んでおり、『容疑者Xの献身』の影響下にある知的ゲーム色の強いミステリ、というその作風が念頭にあったので、本作を読み始めて戸惑った。
 どことなくのんびりとした文体は『知能犯之罠』と同様なのだが、主人公朱朝陽は学校でいじめられ、父親は新しい妻子に気を遣って自分を蔑ろにするという辛い境遇で(読んでいても子供が主人公のせいかなかなかしんどい)、その八方塞がりな状況の描き方が完全にノワールの手触りなのだ。心理的に追い詰められた朱朝陽が暴発して異母妹を殺害してしまうという話の転がし方も、まるで往年の馳星周
 一方、ミステリとしての伏線の張り方はスマートで、普普が施設で性的虐待を受けていた→朱晶晶へ仕置きするのに陰毛を食べさせることを思いつく→警察は大人による性犯罪と誤認する、というのが手際よく描かれている。
 シリーズ探偵厳良(シリーズ探偵ということはあとがきを読んで初めて知ったが)が登場すると、話の雰囲気が変わる。厳良は、元警察官で今は大学で数学の教授という、やはり『容疑者Xの献身』の影響下にあるキャラクターなのだけれども、厳良が緻密な推理力で張東昇と朱朝陽の工作を見破ろうとする攻防戦は完全に倒叙ミステリのそれ。
 後半は、なにかに目覚めたかのように朱朝陽が冷徹に殺人計画を実行していく、ピカレスクロマン的な様相となっていく。

 東野圭吾馳星周が合体したような味わいの小説が、まさか中国から登場するとは想像だにしておらず、驚き。

『知能犯之罠』読了読者へのちょっとした目配せもあり。

 厳良は微笑んだ。「ここに来るまえに、省の公安庁の高棟に電話をしてきたんだ。あとで書類をファックスさせると言っていたから、もうすぐ送られてくるだろうね」

 ちなみに、本作のドラマ化作品『隠秘的角落』は下記公式サイトから視聴可能。朱朝陽、張東昇はイメージ通りのビジュアル!

www.iq.com

 

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