ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『すずめの戸締まり』(新海誠/2022)

 宮崎県に住む高校生岩戸鈴芽は、偶然出会った青年宗像草太と共に、「後ろ戸」と呼ばれる、災害が生れ出る扉を封印する。しかし、草太は謎の子猫によって椅子に姿を変えられてしまう。鈴芽と椅子になった草太は子猫を追う旅に出る。その果てに行き着いた先は――
君の名は。』、『天気の子』が大ヒットし国民的人気アニメーション監督となった新海誠の新作ロードショー。出演は原菜乃華松村北斗深津絵里神木隆之介ら。

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 ※ネタバレしています。

 鈴芽が夢で見る幼少時の記憶(雪が降る廃墟)はなんなのか? 鈴芽の母親はなぜ亡くなったのか? そういった疑問をわずかに抱きつつも、テンポのよい話運び(この点はあとでもう少し述べる)でついつい目の前で起こる出来事の方に関心が奪われてしまう。
「あっ」と思うのは、後半、芹澤の運転する車で「鈴芽の生まれ故郷」へ向かう場面。確か、埼玉を抜けるような描写があり、その瞬間に、鈴芽が2011年の東日本大震災だ母親を失ったのだと悟った。唸ってしまった。まったく知らなかったので完全に意表を突かれた。
 鈴芽が(今は)宮崎県に住んでいるという比較的シンプルなミスリーディングにまんまと引っかかって格好だ。脚本もちょうど自分が気づいた辺りで気づいてほしかったと思うので、「いい観客」ではあろうが……

 本作はロードムービーという側面ももっている。宮崎から愛媛、神戸、東京、東北へとフェリー、バイク、ヒッチハイク、新幹線……と交通手段を変えながら旅をし、その過程で様々な人と出会い、別れる。フェリー内の自動販売機、田舎のバス停、明石海峡大橋新神戸駅、新幹線の車窓から富士山を見ようとするくだり、東京駅の雑踏……こういうちょっとした描写がなかなかどうして旅情を誘う。以前も似たようなことを書いたけれども、本作を外国の人が観たらきっと日本の地方を旅行したいと思うのでないか。新海誠は日本の宝である(ただ、本作は日本に居住している人がもつ「いつか大地震が起こって生活がめちゃくちゃになる」といううっすらした恐怖感が所与のものとして描かれているので、外国の人はその辺りの描写の意味が分からないかもしれない)。

 70・80年代音楽の使い方も間口広めの選曲で、個人的には悪くないと考える。エンドロールで楽曲クレジットがずらりと並ぶさまは、最近のハリウッド映画のようだ。

 ストーリー展開はかなりテンポがよい。映画が始まって割とすぐに最初の「戸締まり」があり、その後も各地の「後ろ戸」をどんどんと閉じてゆく。一方、鈴芽が危険を顧みず戸締まりに身を投じる動機はよく分からなかった。一義的には草太さんがかっこよかったからなのかもしれないが(鈴芽が子供の頃に常世へ行ったことがある、という「縁」はあるのだけれども、あくまで終盤に描かれるので、こちら側からするとやはり分からない)。
 ダイジンがなにをしたかったのかもよく分からなかった。最終的に要石に戻るのであれば、草太を椅子にする必要がなかったのでは。左大臣も環を操っていた割には、最後は普通にミミズを退治していて、なんだったのか。

 とまあ多少気になることはあれど、まずもって面白いことは間違いないし、締め方もいい。さすが新海誠である。

 

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