ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『天気の子』(新海誠/2019)

 前作『君の名は。』が邦画興行収入歴代二位の大ヒットで一躍国民的アニメーション監督となった新海誠の最新作。東京に来た家出少年帆高と、不思議な力をもつ少女陽菜の、ファンタスティックなラブストーリー。声の出演は醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、小栗旬ら。

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 お話はちょっと変わっているし、また、非常に偏った持ち味の作家性だと思うけれども、作風の魅力を磨き続けた結果、ハリウッドと異なるアプローチで娯楽映画の一種のワールドスタンダードに到達したのではないかと感じた。RADWINPSの楽曲の使い方もまったく堂に入っている。
 観る前は「天気がテーマで長編映画になるのか?」と疑念を抱いていたけれど、ちゃんと天気をテーマにした娯楽長編映画に仕上がっており、これはこれで類を見ないなと思った。

 ※以下、ネタバレしています。

 とはいえ、やはりストーリー展開がちょっと変わっているのである。ハリウッド映画のように、一人の主人公がいて、その主人公には欠落したものがあるけれど明確には自覚しておらず、事件に巻き込まれることで自分の欠落と向き合い、それを乗り越えることで事件が解決し、また日常へ戻っていく、という形式でない。
 主人公帆高は離島から家出して東京へやって来るけれども、高校生ということで日銭が稼げず、新宿歌舞伎町のネットカフェで貧しい暮らしを送る。道中で出会った須賀という男を頼り、住み込みで彼の編集プロダクション業を手伝う。自分が役に立っているという充足感から帆高は仕事にのめり込む。そんなある日、歌舞伎町で風俗店へスカウトされていた陽菜を助けようとする。陽菜は祈ることで晴れを呼ぶ能力をもっていた――
 というような感じで、ラブストーリーであるにも関わらず主人公はヒロインとなかなか出会わないし、天気の話もなかなか出てこない。で、天気の話になると、今度は編集プロダクションの話はぐっと後景へ退くのである(帆高が編プロの仕事を放り出して、というような描写がある)。
 観ている最中はそれほど違和感がないのだけれども、あとから振り返るとあらすじを簡潔に説明するのが少し難しい。『天気の子』は「00年代のエロゲを想起させる」という論を読んで、なるほどと思った。確かに「00年代のエロゲ」はこのような形式のストーリー展開であった。

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 観客全員が言っているとだろうで自分が取り立てて言うことでもないけれど、東京の街並みの描写が美麗に極まっている。観る前に「新海誠は西新宿や小田急方面、代々木、御苑、四ツ谷方面は描くけど、西武新宿とか歌舞伎町は出さないよなあ」とぼんやり思っていたので、今回、歌舞伎町描写をきっちりやっていたのに感心した(歌舞伎町も麗しく描いてしまうのは罪かもしれないが)。『君の名は。』で得た名声を武器にありとあらゆる商標の利用許可を得た結果、異様に解像度の高い東京描写となり、2019年のリアル東京として後世に残してもよいレベルに到達している。
 他にも池袋や田端なども端正に描かれており……いや、田端ですよ? かつて映画でこれほど田端がフィーチャーされたことがあったのだろうか? 田端のJR線に沿った高台の坂道は印象的で、自分も10年以上前に訪れていた。もちろん、新海誠のように素敵に切り取ることはできないが……
 ともかく、外国の人が観たら「東京に行ってみたい!」と思うのではないだろうか。新海誠は国の宝だ……

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映画『天気の子』予報② - Youtubeより

 あとは、ラブホテル内を(ラブホテルだと明確に言及せずに)実に緻密に描写しており、これ、小中学生も観る映画なんだぞ、と思った。あとはヒロイン陽菜が18歳と偽っていたけれど実は中学生だったと明かされ、諸々の展開の18歳であればやむを得ないという根拠が崩壊してしまい、制作委員会方式ですらなおこれなので、困った人だなというか、作家性だなと思った。

 いろいろごちゃごちゃ書いてはいますが、新海誠の独自性と、メジャーへ受け入れられるアレンジが完全に開花した感じで、個人的には『君の名は。』よりもさらに面白かったです。もはや完全に日本を代表する映画監督の一人でしょう。

天気の子

天気の子