ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『獣の柱』(イキウメ/2019)

 世界中で、空から落下する巨大な柱。柱のもたらす力に、やがて人類は柱への信仰を始める――
 イキウメは前川知大が2003年に旗揚げした劇団である。これまで『太陽』が入江悠によって2016年に、『散歩する侵略者』が黒沢清によって2017年に映画化されている。
 三軒茶屋シアタートラムにて観劇。

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イキウメ公式ウェブサイトより

 とても面白かった。この劇団を観るのは初めてだったので、観念的な内容で退屈してしまったらどうしようなどと心配していたが、まったくそんなことはなく、娯楽的面白さと表現性が両立した快作だった。

 ※ネタバレしています。

 まず、脚本がよい。ミステリ仕立てのSFというような佇まいで、日常から徐々に世界的規模へスケールが広がっていくさまを、コミカルかつ丁寧に描いている。
 冒頭、白い服を着た人物たちによる意味ありげなモノローグから、一転して舞台は2001年の高知へ切り替わる。
 天文好きの二階堂進は、先輩の山田から、おなじ天文仲間の藤枝が山中で死んだと知らされる。進は一週間前の流星があった夜に隕石を探しに山へ分け入った際、藤枝と遭遇していた。その後、藤枝は佐久間という不思議な男に遭遇し、夕方まで意識を失っていた。意識を取り戻した藤枝は進の家を訪れ、進が拾っただろう隕石をよこせと要求する。そして、再び山の中へ戻り、一週間後、「餓死」したのだった。
 進は拾った隕石を調べようとするが、隕石を目にした瞬間、強烈な幸福感と共に意識を失い、しばらくのち、妹の桜によって助けられる。それを知った山田は、藤枝もまた山中で隕石を目撃したことにより幸福感に包まれ、誰にも救助されないまま餓死したのではないかと推理する。
 一方その頃、東京渋谷では、スクランブル交差点で通行人たちが急に立ち止まり、突っ込んできた車に轢かれるという事件が発生していた。ニュース映像を見た進たちは、硬直した人々の視線の先に隕石とおなじ材質の広告看板が設置されていたことに気づく――

 これでだいたいストーリーの三分の一くらいだろうか。天文ファンの日常風景の中に「仲間の不審死」という小さな謎を提示し、隕石の不思議な力から渋谷での事故までを、観客が納得するようにエピソードや議論を積み重ねて描いていく。隕石や柱に関するSF的考察を途中で織り交ぜるのもツボを押さえている。(例えば、柱は地球が人間を駆除するために生んだ自然現象である……というちょっと『寄生獣』っぽいくだりとか)。
 最終的にストーリーは世界の終末まで展開し、新人類のビジョンが語られるところで幕を閉じる(締め方も、目覚めたものたちが集会の聴衆=実際の観客に向かって語り掛けるという、演劇ならではのメタフィクショナルな仕掛けを施していて、うまい)。改めて物語を振り返ると、『幼年期の終わり』や『果てしなき流れの果に』といった往年の名作SFの匂いを強く感じる。

 演者もよくて、掛け合いは、舞台嫌いな人が嫌うような舞台特有のアレな感じが薄く(ゼロではない)、お話の流れに集中できる。特に安井順平が演じる山田が、笑いを振りまきつつも芯のある優しさを自然に表現していた。

 落下した「柱」はなんだったのか? というテーマ性については、個人的にはあまり踏み込みがないように思えた。また、先述したように『幼年期の終わり』を思わせるお話をなぜ2019年に? というのも正直ある。だからよくないというわけでなく、テーマ性でなくストーリー自体の面白さや語り口の妙で最後まで観客を引きつけるのが、むしろ演劇として新鮮に思った。
 この劇団の舞台なら次回作も見たいと感じた。

www.ikiume.jp

 

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