ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『外の道』(イキウメ/2021)

 劇団イキウメの最新公演。当初は2020年公演予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止、一年経っての初演となった。
 脚本演出は前川知大。主演は安井順平池谷のぶえ。他、薬丸翔、豊田エリー、清水緑、浜田信也、盛隆二、森下創、大窪人衛が出演。
 シアタートラムにて観劇。
 イキウメらしさは存分に味わえるが、やや戸惑う部分もあり。

 ※ネタバレしています。

 とある地方都市の喫茶店で、寺泊満と山鳥芽衣は偶然に再会する。小中の同級生だった二人は今おなじこの町に住んでいるのだった。近況の話題も尽きた二人は、問わず語りに、それぞれが体験した奇妙な出来事を話し出す。
 宅配ドライバーの寺泊は数年前に政治家のパーティーへ出席した際、その政治家が突如脳卒中で逝去するという事件に遭遇した。政治家の脳からは、外傷がないにも関わらず、ビール瓶の破片が見つかる。それは寺泊がパーティーの最中に落として割ってしまったビール瓶だった。
 その後、寺泊は弟と一緒に町のはずれにある喫茶店を訪れ、評判である店主の手品を見物する。店主は未開封のコーラ瓶にコインを押し入れるという奇術を披露した。寺泊は店主がくだんのパーティーに潜り込み、ビール瓶の破片を政治家の脳へ押し入れたのでないかと疑う。やがて店主は寺泊の家に現れ、彼の脳内に氷を埋め込むのだった。
 一方、山鳥は弟と、痴呆で少女のように戻ってしまった老母と暮らしていた。町では時々原因不明の地鳴りがした。そのたびに老母は「おなかが空いているのだろう」と配膳を始めるのだった。
 ある日、山鳥の元に「無」と品書きされた荷物が届く。開けた翌日以降、彼女の自室には暗闇が広がり、やがて部屋を覆うようになった。暗闇に閉じこめられた山鳥は無我夢中で逃げ出そうとし、気が付くと離れたマンションの屋上にいた。自宅へ戻ると、暗闇の中に見知らぬ少年がいた。少年は山鳥の息子と名乗った。警察へ通報し、職場で相談するも、むしろ少年が山鳥の息子であるという証明が集まるばかりだった。

 前二作『獣の柱』と『終わりのない』が比較的はっきりした筋立てだったため、本作は少し困惑するところがあった。もちろん、日常風景から少しずつ世界の様相が変わっていくという手つきはイキウメらしいし、見せ方もさすがにうまい。一方、基本的には主人公二人の回想という進行のため、物語が前進していくというよりは、過去の出来事が並列に語られていく結構で、お話にやや乗っかりにいくにくいという個人的な印象をもった。主人公二人がいわゆる「信頼できない語り手」であることも、感情移入しづらい要素の一つだろう。
 主人公二人の回想劇という構造上、主演二人の安井、池谷へセリフが集中しそうなところを、主人公の内面的な語りはいろいろな演者に分散させてしまうというのは面白いなと思った。イキウメ組の役者は安心の構え。メインゲストの池谷のぶえはもちろんうまいが、イキウメ組とは異なるトーンなのだなと個人的には思った。

 緊急事態宣言下の公演ということで、チケットのもぎりは自分でやるなどいくぶんものものしい雰囲気ではあったが、ちゃんと客も入っており(ほぼ満席だったように思った)、公演自体は普段通りだった。

 

buridaikon.hatenablog.com

buridaikon.hatenablog.com