ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『カメラを止めるな!』(上田慎一郎/2017)

 映画演劇専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップとして制作されたインディーズ映画作品。ゾンビ映画の撮影中に実際のゾンビに襲われる様子がワンカットで描かれる、のだが……
 監督は本作が初の劇場公開長編映画となる上田慎一郎。出演は前述のワークショップに参加していたという濱津隆之、真魚、しゅはまはるみら。

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ネタバレしています。

 37分間のワンカットゾンビ映画パートを観ると、ストーリーの奇天烈さはさておき、映像作品として不自然な箇所がたくさんあるわけですね。「ちょっと……」と言ってのそっとフェードアウトする技術さん役とか、ぐわんぐわんズームイン・アウトを繰り返すカメラワークとか、「こんなところに斧が……ツイてるわ」という棒読みセリフとか。
 続いて、ゾンビ映画の撮影準備パートになり、商業主義的な映像制作に悶々としている映画監督、過去に女優だったけれど引退したその妻、映像制作スタッフになりたいものの完成度を追求するゆえに周囲との軋轢ができてしまうその娘、他、NGばかりのアイドル女優、プライドの高いイケメン俳優、アル中の俳優、やたらと水の硬度にこだわる俳優などが集まり、ちょっと不安になりながらもワンカット生放送ゾンビ映画に臨む。
 そして、怒涛のような映画撮影舞台裏パートが始まるんだけれども、まずはもう誰もが挙げるだろうものが、伏線とその回収の見事さ。ワンカットゾンビ映画パートの不自然な箇所が、撮影準備パートの様々な要素と呼応して、一つ一つ説明されていく。その舞台裏がもう実にばかばかしくて、何度も笑ってしまう。
 最も見事な回収は、ラストの写真ですよね。アル中俳優が脚本に挟んだ娘の写真から、監督が娘の写真を引っ張り出すカットをさっとインサートし、妻の暴走で壊れたクレーンの代わりとして、娘が組体操を思いつく、そのきっかけは、監督が脚本に挟んでいた娘を肩車していた写真だった……関係者みんなで映画を文字通り力業で完成させる泣かせどころと、父娘がお互いに認め合った瞬間をさらっと描く泣かせどころを重ねて描く手つきは本当にお見事。
 個人的には、この映画は「お仕事もの」として捉えた。そう、仕事ってなかなか計画通りにいかなくてハプニングやトラブルばかり、でも、知恵とやる気で(両方大事!)なんとかゴールまで走り抜けるものだよね……というのがもうこれ以上ないくらい真に迫って描かれていて、しみじみと感じ入ってしまったのだ。
 また、エンドロールでもちょっとびっくりしてしまった。ここでは「真のメイキング」が描かれるのだけれども、あ、カメラマンが腰痛になって崩れ落ちて助手が引き継ぐ場面って、実際はおなじカメラマンがコケた振りをして地面に寝そべってそのまま立ち上がってるだけなのか、組体操の場面も本当に組体操で撮影しているわけでなくクレーンで撮影しているのか、と驚かされた。冷静に考えれば当たり前の話なんだけど、始めの37分間のワンカットゾンビ映画パートを「あいつら」が一生懸命撮影して完成したものだと勘違いしてしまうのは、彼らの「熱意」と、本作の「枠構造」にあるのだなと改めて感心した。
 本作のアイディアが完璧に新規なものというわけではなく、自分はそれほどたくさんの映画を観ているわけではないけれども、例えば、映画本編とそのメイキングを構造的に取り扱った作品としては『超能力研究部の3人』山下敦弘/2014)、始めに珍奇な結果を描き過去に遡ってその原因をコメディタッチで描く作品としては『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(トッド・フィリップス/2009)等がある。
 本作が優れているのは、アイディアに安住せず、アイディアを磨きに磨き抜いたキャスト、スタッフ、監督によるものだろう。

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]