ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(アンディ・ムスキエティ/2017)

 アメリカの作家スティーヴン・キングのホラー小説『IT』を映画化した作品。メイン州のデリーという架空の町で、下水道に隠れて子供たちを捕食するピエロ姿の怪物ペニーワイズとの戦いを描く。原作は子供時代と大人時代がカットバック形式で交互に描かれ、双方のパートからペニーワイズの核心に迫っていく構成となっているが、本映画では子供時代編のみを抜粋して再構成している。それに伴い舞台も1950年代から1980年代へとシフトしている。

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 かつて原作を読んだ時、大雨の中、少年が紙の船を追いかけていくと側溝の中からピエロが声をかけてくる場面や、洗面所の排水溝から大量の血が噴き出してくる場面、子供時代編のラストにあたる川べりで血の誓いをする場面などは鮮烈な印象を受けたものだが、そういった場面がきちんとしたビジュアルで映像化されているところは、感動した。
 キャスティングもよくて、だいたい、アメリカのこの手の映像作品(『グーニーズ』とか『SUPER8/スーパーエイト』とか『ストレンジャー・シングス』とか)というのはいつも「いい顔」の子らをキャスティングするものだが、本作もご多分に漏れず"the Losers Club"にふさわしい面構えのキャスティングになっている。
 劇伴は、いい音楽風に見せかけて安心させておきながら、おもむろに不協和音に切り替わって恐怖場面を予告する、という小技の効いた演出をしている(笑)。
 一方、『IT』ってこんな話だったっけ? という印象も正直なところあり、大人時代編がばっさりとカットされている故の違和感を除いてもなお、少し物足りないように感じた。
 プロットに特段の瑕疵はない。翻訳で文庫全4巻という長大な原作を2時間程度にまとめるにあたり、各キャラクターの個性を手際よく描き、先述した原作におけるビジュアル的に「いい場面」もちゃんとピックアップし、かつ、起承転結をつけており、そつのない脚本だとは思う。
 しかしながら、原作にあった、よくも悪くも観念的というか、スピリチュアルな部分が基本的にはなくなっており、結果、ペニーワイズが卑小な存在になってしまったようにも思う。ペニーワイズって棒で殴ったらダメージ与えられるんだ……!? なので、同時にビルが吃音という設定も十分に消化し切れていなかったと思う。
 続編への含みをもたせた結末ではあったが、初めから前後編くらいでじっくり描くか、まあ、でも、それもアメリカの映画業界的には難しいだろうで(たぶん、続きものは基本的にNGなんじゃないでしょうか?)、もしくは登場人物をばっさり整理してビル、ベヴァリーともう一人くらいに絞るかした方がよかったかもしれない。素人意見だが。
 トータルとしては、原作のビジュアル的に美味しい場面が映像化されていて嬉しいが、原作のプロット的に美味しい場面が十分に盛り込まれてないけど、ボリューム的にはしょうがないよね、というところでしょうか。

 

IT イット“それ

IT イット“それ"が見えたら、終わり。