ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『おわたり』(タカハ劇団/2023)

 高羽彩が主宰するタカハ劇団の公演。「おわたり」と呼ばれる風習が残る海沿いの小さな集落。海で死んだ者を鎮魂するというその祭りが行われる時、集まった人々の秘密が暴かれていくのだった――
 出演は早織、西尾友樹、田中亨ら。脚本、演出は高羽彩。
 新宿シアタートップスにて観劇。

 演劇としては珍しいジャンルホラー作品で、フレッシュに感じた。

 ※ネタバレしています。

 民俗学者蝦草(西尾友樹)とその助手斑鳩宇野愛海)、そして、蝦草の旧友で作家の四方田稔梨(早織)は、伊豆半島の海沿いにある小さな集落を訪れていた。その日は集落で「おわたり」という古い祭りが行われることになっていた。フィールドワークとして風習を取材したい蝦草と、村の有力者で観光振興を図る堀口(土屋佑壱)の思惑が一致しての訪問だった。他所の人間に対して愛想のいい堀口であったが、三つの禁忌を蝦草らに言い渡す。曰く、おわたりの最中は、外を見てはいけない。人形を飾ってはいけない。背後から呼ぶ声に振り返ってはいけない。
 一方、稔梨には別の目的があった。彼女は「おわたり」を取り仕切る当主阿部翡翠(かんのひとみ)に用があった。稔梨は、蝦草とも共通の友人で、大学時代に自殺した「ユウヤ」が霊としてなにか訴えかけていると感じており、彼と話をするために、霊能力をもつと言われる翡翠に介在を依頼したかったのだった。
 稔梨は、翡翠が孫息子である刹那(田中亨)を折檻している場面に遭遇し、驚く。刹那はユウヤにそっくりだったのだ。しかし、蝦草はそれを否定する。
 やがて夜になり、集落総出の宴会が行われたあと、おわたりが始まる。そして、稔梨が誤って人形の回るオルゴールの蓋を開けてしまった時、惨劇が幕を開けるのだった――

 冒頭に語られる「デパートの子供向け遊び場にいる少年」という怪談が象徴するように、本作はジャンルホラーである。しかも民俗ホラーだ。集落の奇習、腹に一物抱える村人たち、積み重なる奇妙な出来事、と実にオーソドックスな民俗ホラーの語り口。民俗ホラーといえば、三津田信三の「刀城言耶シリーズ」や、澤村伊智の「比嘉姉妹シリーズ」等の近作が思い浮かぶけれども、ちょっとしたブームなのかもしれない。
 一方、クライマックスで、刹那が登場人物たちが最も恐れるもの(主に彼らが死においやってしまった人々)に姿を変え呪い殺していくさまは、勧善懲悪的で分かりやすいのだけれども、ホラーとしては少し描き過ぎかもしれないなとも感じた。
 蝦草と斑鳩の怪異に対する距離感が適度である一方、稔梨のめり込み方は観客としていくぶん置いてけぼり感があったかもしれない。プロットとして矛盾しているとかそういわけでないので、難しいですね、こういうの。
 舞台は屋敷の中の一室だけで基本的に完結する。演劇の脚本としては当たり前かもしれないけれども、手際はやはりよいと思う。屋敷の外で蝦草が語る過去の出来事(ユウヤの自殺)と、その時の稔梨の様子をオーバーラップさせる演出などはよかった。