ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『マリグナント 狂暴な悪夢』(ジェームズ・ワン/2021)

 夫を殺害された女性。以来、不気味な出来事が起こり始めた。何者が家の周りをうろつく気配。そして、殺人鬼との意識の同調。一方、警察は街で連続する殺人事件の調査を始める――
 監督は『ソウ』、『死霊館』などで知られるジェームズ・ワン。出演はアナベル・ウォーリス、マディー・ハッソン、ジョージ・ヤングら。

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 ※ネタバレしています。

 妊娠中のマディソンはモラハラ夫デレクに体調不良を訴えるもかえって暴力を振るわれ、後頭部に裂傷を負う。深夜、彼らの家に侵入者があり、デレクは惨殺、マディソンはショックのあまり胎児を失う。その日以降、マディソンは何者かが付きまとう気配を感じる。
 マディソンは高齢の女性が黒づくめの人物に惨殺される場面を幻視する。その女性、フローレンス・ウィーバー医師は実際に殺害されており、警察は捜査の過程でウィーバー医師がかつて児童の「再生手術」を担っていたことを知る。やがて、マディソンは二人目、三人目の殺人現場を「目撃」することとなる。黒づくめの人物は自身を「ガブリエル」と名乗り、マディソンへ語りかけてくるのであった――

 まず最初のワーナー・ブラザースのロゴが、古いビデオテープを再生したようにノイズ混じりで登場するのがかっこいい。最近の映画は制作会社ロゴの演出も凝ってますよね。じゃあ、本作はビデオのノイズが重要なモチーフなのかというとそういうわけでもないのですが……(アイテムとして古いビデオテープは出てきます)
 で、冒頭、海辺に建つゴシック調の病院(おどろおどろしいけど時代は割と最近で1993年)で「危険な患者」が暴走し、医師たちが「対処」を決断する、というのを切れ味よく語るアバンタイトル、これはいい映画……と噛み締めます。
 さて、物語は現代に移り、景色の中にスペースニードルがちらっと映って、え、これ、シアトルが舞台なの? と思うとシアトルが舞台です。ちなみに、シアトルの地下廃墟が印象的な舞台となりますが、実際のシアトルにそういうのがあるんですね*1(完全に余談ですが、地下廃墟を描くことでガブリエルのアジトの場所をミスリードするのは、島田荘司の某ミステリ作品を思い起こしました)。
 後半は追跡劇に女囚もの、ヒーローアクション(?)と矢継ぎ早にジャンルを切り替え、観客を飽きさせないのも好感度大。しかし、なぜ女囚もの……?
 ガブリエルの正体がマディソンの脳に寄生している兄弟だとしたら序盤でマディソンを襲っていたやつは誰? とか、シドニーは廃病院へ潜入する際になぜわざわざ夜するの?(怖いよ!) とか、「あ、自分のとこに通報しちゃった」ってこの場面でそのギャグいる? とか、最後は姉妹愛でハッピーエンドっぽく締めてるけどシアトル市警を壊滅させていますが……とかつっこみどころは多々あるものの、演出の確かさと焦点をずらさないストーリーテリングからすると、これもジェームズ・ワンの手の内というか、おもてなしの心なのかなと思いました。

 旺盛なサービス精神と、それでいながらごちゃつかずにしっかり楽しめる映画で、とてもよかったです。