ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『あさひなぐ』(英勉/2017)

 薙刀に青春を賭ける女子高校生たちを描いた、こざき亜衣原作の青年マンガを実写化した作品。主演の東島旭を演じるのは乃木坂46西野七瀬。他、白石麻衣生田絵梨花など乃木坂46メンバーが主要キャストを固める。

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 自分は乃木坂46を応援していることもあり観に行ったけれど、感想は、まず一般映画としてどうか、を述べたい。後段で、乃木坂46映画としてどうか、についても記載する。


一般映画としての視点

 薙刀の試合の場面は、『300』(ザック・スナイダー/2007)風のスローモーション演出で、薙刀に詳しくない観客にとっても見せ場が分かりやすくなっているのはよいところだと思った。が、やはり試合中は常時、面を被っているのでどちらが主人公側なのか分かりづらい。背中に紅白のたすき? を結んで色分けをしているけれど、正面を向いていると分からなくなる。ただ、これは自分もどう解消すればいいのか分からない。
 部活動としてのしごき的な場面は、これは武道と捉えるとある程度致し方ないのかもしれないけれど、昨今の情勢を鑑みるにもう少し描き方を変えられなかっただろうか、と感じた。例えば、お寺の合宿で旭に水桶を担いで階段を昇り降りさせるなど、トレーニングとしてあまり効果的でなく、精神的に追い込むことが目的のように見える。見えるというか、実際、心の座っていない旭に根性を付けさせるための仕置きなのだが、個人的にはあまり気持ちよく感じない。*1
 お話の主軸がぼやけているように見えるところも欠点。原作マンガは20巻超の長編のため、2時間の映画として完成度を高めるのであれば物語の展開はメインテーマに奉仕させるように作らなければいけないが、原作のダイジェストという感が否めない。作り手側のメインテーマは旭の成長にあると思われるが、だとすれば旭がなにを欠損していて、どのようにそれを乗り越えるのか、というのを描く必要がある。映画では、「旭は日常生活においてどん臭い」、「痴漢から助けてくれた宮路真春が薙刀をやっていたから、薙刀をやれば強くなれると思った」、「インターハイ、合宿、新人戦、親善試合を通して心身の成長を遂げる」、「最後に真春から教わった技でライバルである一堂寧々を倒す」という要素が確かに描かれているのだが、旭の内的な欲求とその変化がいまいち曖昧だし、結局、観客側が「こういう話なんだろうな」と補っている状態である。
 もう少し細かいところでいうと、宮路真春の圧倒的な強さみたいなのも描かれていないので、真春が寧々に負けた時がいまいち衝撃が伝わりづらい。
 主将野上えりに関するエピソード(チームでの勝利のために敢えて勝ちでなく引き分けを目指す)も、味がありそうな素材だったので、もう少し回収があってもいいような気がした。


乃木坂46映画としての視点

 冒頭、西野七瀬さんがスクリーンに現れると、「おお、乃木坂46が劇映画に普通に出ている……!」と新鮮な驚きがある(笑)。
 劇中で旭は小さい小さいと言われており、西野さんも小柄といえば小柄だが身長自体はそこまで低くないので、大柄な相手との対戦の時、『ロード・オブ・ザ・リング』(ピーター・ジャクソン/2001)のホビットを描くみたいなカメラワークで演出しているのはちょっと笑った(しかし、その後、真横からのカットを入れてしまっていて、実は身長差があまりないことが分かってしまい、台無しである!)。
 白石麻衣さんに関しては、演じる宮路真春が「勉強そっちのけで薙刀に勤しむ熱血キャラ」なので、面を取った横顔にマスカラが煌いているのは少々違和感があった(笑)。他のメンバーも当然メイクされていながらそこまでは気にならなかったので、これは白石さんのメイク担当と演出側の意思疎通が不十分だったんじゃないだろうか。
 生田絵梨花さんは、チームワークより己の道しか見ていない、という点が昔の彼女自身っぽいなと感じた。あと、負けた時にむくれる場面がキュート。
 おなじアイドル映画でも、例えば、『HiGH&LOW THE MOVIE2 / END OF SKY』(久保茂昭、中茎強/2017)などは一般映画の水準としても新しいアクション演出にチャレンジしており、評価が高い。予算規模が違うといえばそれまでだが、『HiGH&LOW』の監督の一人は、乃木坂46のMVも何作か担当している久保茂昭だし、乃木坂46が選ぶことのできる道ではあった。志は常に高くもってほしいと思った。
 全体としてよくも悪くも尖ったところのない映画なので、乃木坂46映画としての観やすさは『あさひなぐ』>『超能力研究部の3人』(山下敦弘/2014)>『悲しみの忘れ方』(丸山健志/2015)ではないだろうか。

 

 

*1:重心を低くしてスネを狙いやすくするため、というエクスキューズもあるけれど、だとしたらもっと効果的なトレーニングがあるでしょう。