ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『15時17分、パリ行き』(クリント・イーストウッド/2018)

 2015年8月に発生したイスラム過激派による「タリス銃乱射事件」で、犯人を取り押さえる活躍をしたアメリカ人兵士らを描く映画。監督はクリント・イーストウッド。実際に犯人を取り押さえたスペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトスが本人役を演じ、その時現場に居合わせた乗客も一部本人が出演している。

www.youtube.com


 この映画、アメリカ人兵士ら本人が出演していて、彼らが実際に体験したヨーロッパ旅行(その道中で事件に巻き込まれる)も本人たちが再現するちょっと変な映画、と聞いて、本人が本人役を演じるような、フィクションとノンフィクションの境目が曖昧になった映像作品に関心がある自分は、興味をもった。
 2点感想がある。


ビルドゥングスロマンとしての『15時17分、パリ行き』

 実は映画を観ていてちょっと泣きそうになってしまった。というのも、人はいいが、ぼんくらで、要領がいいタイプでもなく、しかし、愚直に自分の信念の元に努力してきた男が、ある決定的な瞬間に立ち会い、これまで培ってきたすべての経験を活かして立ち向かっていく姿に、心を動かされてしまったのである。あの時の何気ない行動がこの事件でこのように活かされる、みたいなのが、押しつけがましくなく、けれども、誰が観てもはっきり分かるように描かれており、クリント・イーストウッド、うまいな、と改めて感じた。偶然ではなく、むしろ劇中で語られるように運命に導かれたような……これは主人公がキリスト教系の学校に通っていたという生い立ちが関係しているのかもしれないけれど……でも、この映画のように劇的な事件でないにせよ、誰もがふと感じるような、世界のあり方(見方)だと思う。
 生い立ちのくだりも、さくさくと軽快に、けれども、観客が主人公たちに好感をもつよう、手際よく作られている。
 本人が再現映像をやっているというのは、劇中は存外ほとんど意識することがない。なにも知らずに観たら普通の劇映画だと思うだろう。素人の割にみんな演技うまい。それとも自分自身の役を演じるのはさほど難しくないのだろうか。
 主人公チーム3人のキャラがよく立っており、「口達者な黒人キャラ」とかちょっと映画向けに誇張してるんじゃないの? と一瞬思うけれど、なにせ本人なので全然誇張でないのである。主人公の風貌はちょっとぼんくらに寄せ過ぎてるんじゃないの? と一瞬思うけれど、なにせ本人なので全然寄せてないのである。
 最後にフランスで叙勲される実際のニュース映像が挿入されるんだけど、本編を本人が演じているので再現映像とニュース映像がシームレスに接続されており、よくある本編は役者が演じていてニュース映像で本人が出てくると「あ、こういう人だったんだ」、みたいなのが皆無で、斬新だ! アカデミー賞を二度受賞し、御年87歳になるおじいちゃんが、なぜこんなとんがったことを始めたのか……
 イタリアでナンパするくだりとかはさすがにいくらなんでも関係なさ過ぎるだろうとちょっと思ったけれど、でも、ヨーロッパ観光も全般的にまあまあ楽しく観られた。むしろ途中で事件の場面がインサートされるのがちょっと邪魔かなと思ったけれども、たぶん、編集していて、このあと事件が起こりますよと明示しないと、さすがに観客が目的地を見失ってしまう、判断されたのではないか。


タリス映画としての『15時17分、パリ行き』

 自分はタリスに2度ほど乗車したことがあり、アムステルダム中央駅からでなくスキポール空港駅からだけれども、パリ行きにも乗ったことがあるので、予告編でテロリストが通路のドアを開けて客車に入ってくる場面を見て、ああ、タリスの車内だ、と思い、ちょっとどきっとした。
 また、劇中、スペンサーたちがアムステルダム中央駅からタリスへ乗り込む場面で、オランダ鉄道の接近メロディが流れるのだけど、あれなどもどきっとしてしまうのである(以下で聞けます)。

https://www.youtube.com/watch?v=h4EAhadDjyQ&t=1m49s


 ちなみに、Wi-Fiがつながらないからと、スペンサーたちが勝手に2等車から1等車へ移動してしまうのだが、タリスは車内改札あるよ! と心の中で突っ込んでいた(彼らが1等車に移動していたからこそ、事件の拡大を防げたので、結果オーライなんだけどね)。