ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『殺人者の記憶法』(ウォン・シニョン/2017)

 引退した連続殺人鬼ビョンスが、新たな連続殺人鬼テジュと偶然遭遇する。テジュが娘ウンヒを毒牙にかけようとしていることを悟ったビョンスはテジュとの対決を選ぶが、やがてアルツハイマー病がビョンスを蝕んでいく。原作は韓国のキム・ヨンハによる同名小説。主演はソル・ギョング。他、キム・ナムギル、ソリョン、オ・ダルスらが出演。監督はウォン・シニョン

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 ※ネタバレしてます。


 殺人鬼VS殺人鬼とはなんと燃えるシチュエーション! と観に行ったところ、確かに殺人鬼同士が相手を出し抜き合うみたいな場面もあるのだけれど、どちらかといえば、記憶を失い混濁していく主人公が、過去に自分が犯した犯罪によって苛まれる……それも単に後悔の念に駆られるとかでなく、新たに発生した連続殺人が自分の手によるものでないという自信がない、自分が娘を守ろうとしているのか殺そうとしているのか分からない、という現在進行形の悪夢に襲われるんですね。かつて主人公は無心に人殺しをしてきたけれど、結局、それが今、娘を守ろうとする自分の邪魔をする。アルツハイマー病の殺人鬼というフィクショナルな設定が、「過去の自分に復讐される」という誰の身にも起こるような状況を、より先鋭的に描く。原作は読んでおらず、また、原作からアレンジされているのかもしれないけれど、エンターテインメントというよりは文芸的なテーマだとは感じた。
 と思いきや、ラスト近く、娘がボケ防止に渡していたボイスレコーダーによって、主人公ビョンスは自分でなくやはりテジュが殺人鬼であったことを改めて理解し、そして、今まさに娘のウンヒを手にかけようとしていることを知る。ここからの対決のくだりは完全に韓国流エンターテインメントで、たぶん、映画独自のパートのように思える。
 シリアス一辺倒というわけでもなく、主人公が張り込みでペットボトルに排泄した自分の尿を、瞬間的に記憶を失って飲んでしまうとか、ギャグシーンも多い。主人公の兄である警察署長もいい味を出している。
 主人公ビョンスが殺人の衝動に目覚めたしまったエピソードはなかなか痛ましいものがあるのだけれど、一方、テジュについてはあまりそういうのを描かない方がよかったように思った(頭蓋骨をぱかっと開けたのにはびっくりした)。
 ということで、殺人鬼VS殺人鬼というエンターテインメントな面構えをしつつ、内実は文芸的で、しかし、最後はやっぱりエンターテインメントに戻るという、独特のテイストの映画でした。