ぶりだいこんブログ

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『ファイアーエムブレム 風花雪月』(任天堂/2019)

 書店へ行くと「チームマネジメント」や「部下の育て方」といった本が並んでいる。世のマネージャーと呼ばれる人は、チームメンバーの育成に頭を悩ませているのだろう。『ファイアーエムブレム 風花雪月』はそんな人にとっておすすめなゲームかもしれない。楽しみながら、メンバー育成の呼吸、のようなものを掴むことができる。
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ファイアーエムブレム 風花雪月』はファミコン時代から続く人気シミュレーションRPGシリーズの最新作。Nintendo Switchで2019年7月に発売された。

 舞台は中世ヨーロッパ風の大陸。大陸には帝国、王国、諸侯同盟の三つの勢力が鼎立、その中央には緩衝地帯として修道院士官学校が存在している。士官学校には勢力ごとに学級が設けられ、三国から若者たちが集まっている。主人公は士官学校の若き教師として、三つの学級の内の一つを受け持つことになる。やがて彼らは修道院を渦巻く陰謀や、大陸を分断する戦乱へと巻き込まれていく――

 ゲームは一か月単位で進んでいく。
 平日は生徒たちの指導方針を決め、剣、弓、魔術、馬術といったスキルを育成する。休日は3Dマップで描かれる学園内を散策し、生徒のプライベートな悩みを聞いたり、お茶会を開くなど、生徒たちとの交流を深める(かつての『ときめきメモリアル』を思い出した)。月末は生徒たちを率いて戦場へと出撃する。

 初めてプレイした際は盛りだくさんな要素にびっくりした。名前のあるキャラクターは完全フルボイスである。最近のゲームでは珍しいわけでもないが、後述する「支援」の会話も含めると、テキスト量は膨大である。また、学園内の散策も、総勢24名の生徒プラス大人たちとの交流だけで大変なボリュームだし、クエストに料理に釣りに植物栽培にサウナ入浴にとできることは山ほどある。始めのうちは「行動力」が少ないので、すべてを消化し切れないくらいだ。

 プレイしていく内に、このゲームの大きな要素を占めている「育成」がなかなか興味深いサイクルになっているなと思うようになった。
 生徒の育成は単純に授業をすればよいというものでなく、「やる気」というパラメーターが鍵になる。生徒側の「やる気」が足りないと指導を行うこと自体できない。「やる気」は一緒にランチへ行ったり、生徒が戦場で武功を上げたり(重要!)、休養を取らせると上昇する(もっと重要!)。
「やる気」は指導をするごとに下降するが、指導の結果がよい時に「ほめる」と回復する。「ほめる」しか選択肢がないのでここにゲーム性はないのだが、授業で生徒が手応えを感じて喜んでいる→ほめる→もっとやる気が出る、というプロセスは妙にリアルな手触りがある。
 全体として、あれやこれやで生徒のやる気を上げさせる→やる気が上がると指導の効率が上がる→指導の効率が上がるとスキルが身に付く→スキルが身に付くと実戦で役立つ、みたいな流れが割と首尾一貫していて、学園ものではあるのだが、教師と生徒よりは、社会人における上司と部下の関係性に近いように感じた。制作陣はいわゆる「部下育成」という色をかなり意識しているのではないだろうか。
 育成は基本的は各生徒の得意分野を伸ばしていくのだが(生徒ごとに剣が得意とか魔術が不得意とかが明示されており、得意分野はスキルが伸びやすく、不得意分野は指導しても数値が上がりにくい)、時々生徒の方から「自分は重装と馬術を伸ばしたい」とか言ってくることがあり、これも予め仕込まれていることは理解しているのだが、やけに人間くさく感じる。
 独特のリアルさがあるのだけれども、現実との大きな違いは「やる気」が定量的に把握可能かどうかですね(リアルワールドの部下はやる気があるように見えてなかったり、ないように見えてあったりするので、ハードモードです)。
 主人公であるところの先生は生徒を指導しつつ自分も戦場へ出るという、まさしくプレイングマネージャーなのだが、強いのでつい前線に出してしまいがちで、そうすると生徒の実戦経験が伸びないというのもプレイングマネージャーあるあるなのである。

 もう一つ重要なのがキャラクター間でもっている「支援」というパラメーターで、この「支援レベル」が高いキャラクター同士を戦場で近くに配置すると、攻撃時の能力が高まったり、「連携計略」というの技(そういうのがあるんです)が使えるようになったりする。しかるに、戦場ではユニットを孤立させずなるべく隣接させた方がよいのだけれども、これも実際の戦争っぽくある。
 支援は戦場で隣接して戦闘すると徐々に高まっていく。また、主人公である教師は、生徒に対して「お茶会に誘う」、悩みに対して的確に回答するなどすると、高まっていく。高まると、支援レベルに応じてキャラクター同士のちょっとした挿話を見ることができるようになる。
 始めは幼い思考で時に相手を傷つけるような発言すらしていた生徒たちが、支援レベルが上がるにつれ、持ち味を活かしつつも相手を気遣えるような側面が見られるようになり、「こいつ、大人になったな……」と生徒たちへ一層思い入れを感じるようになる。例えば、「黒鷲の学級」のフェルディナントという生徒は、貴族であることに絶対的なアイデンティティを抱くちょっと空気の読めない男で、始めは他の生徒にもやや煙たがられているのだが、やがて、貴族のアイデンティティは保ったままノブレス・オブリージュに目覚めていくのが、ほほえましい。

 ちなみに、キャラクターデザインは倉花千夏である。なるほど、確かにシルヴァンとかユーリスはうたプリにいそうなビジュアルですよね……

  総じて、生徒の育成は楽しく、また、生徒との交流が部隊を強めると共に生徒自身のキャラクターを深掘りしていくというゲームデザインが見事。また、随所にのちのちの悲劇を予感させるようなストーリー展開もいい。「ファイアーエムブレム」をプレイしたのは初めてだったが、とても楽しむことができた。