ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『終わりのない』(イキウメ/2019)

 劇団イキウメの公演。
 脚本演出は前川知大。出演は山田裕貴奈緒仲村トオルらの他、安井順平、浜田信也らイキウメメンバー。
 世田谷パブリックシアターにて観劇。

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 ※タバレしています。

 本作もイキウメのトレードマークと言えるような、ミステリー要素のあるSFである。

 9歳の時、ダイビング中に海でおぼれた川端悠理は、頭の中の「ひらめき」の声によって生還する。9年後、18歳になった悠理は両親や幼馴染と湖畔へキャンプに訪れる。悠理は中学生時代に同級生の杏を妊娠、流産させたことが原因で高校受験に失敗し、以来、引きこもりになっていた。キャンプ場で両親は唐突に離婚の報告をする。ダイバーの父は環境保護を目指して政治家に、理論物理学者の母は量子コンピュータの研究にそれぞれ邁進するためだった。当惑する悠理は、湖で泳ごうとして溺れてしまう。
 目が覚めると、そこは宇宙船の中だった。ダンと名乗る人工知能は現在が32世紀で、地球は既に環境破壊で滅亡しており、人類は居住できる惑星を求めて宇宙旅行中だと告げる。その様子を見ていた宇宙船の乗組員リヒト、ゼン、アンは惑星探査中に死亡した「ユーリ」のクローン再生に成功したと喜ぶ。悠理は自分が21世紀の人間だと主張し、ダンは過去の歴史を調べて確かに川端悠理という人間が21世紀に存在していたと発見するも、9歳の時に水難事故で死んでいたと言う。混乱する悠理に対し、リヒトらは「ユーリ」の再生が失敗したと判断し、悠理を宇宙船の外へ射出、死亡させる。

 この辺りでだいたいストーリーの半分くらいだろうか。物語が始まって30分くらい(およそ上述のキャンプの段落)はそもそもなんの話か分からない。鬱屈した少年の半生が断片的に描かれるのみである。舞台が宇宙船へ移ったあとも、SFっぽくなってきたなと思うものの、未だストーリーの基軸は不明のままである。ホワイトホールの外側の惑星から、元のキャンプ場まで戻ってきて(ただし、杏と今でも仲がいいなど世界線が異なっている)、ようやく悠理が多次元宇宙を跨いでおなじ「悠理」の体を移動する話、ということが分かる。
 迂遠である。平田オリザが説くところ「遠いイメージから入る」を物語全体に適用したような結構だ。
 しかし、物語の焦点が見えないにも関わらず冒頭から観客を引きつけるのは、当然、それ自体が一種の「ミステリー」であるからだし、やはり語り口がうまいのだろう。キャンプ場の舞台美術を切り替えずシームレスに中学時代の回想と行き来し、キャンプ場へ一緒に来ている家族や友人がそのまま回想シーンのガヤ(というかツッコミ?)になる手際のよさは、プロの舞台なら当たり前かもしれないが、舌を巻いた。
 そうした話運びを、役者陣が支えているのも見逃せない。
 主演の山田裕貴は、自分などにとっては『HiGH&LOW』シリーズの鬼邪高番長村山さんだが、本作での彼は持ち味を活かしつつも2時間ほぼ出ずっぱりで熱演していた。仲村トオルはオーバーな言動だけで笑いを取るさすがの存在感。イキウメメンバーの安井順平もいつもながら笑いを取るための間の取り方がうまい。
 量子論による味付け自体は決して珍しいものではないけれども、鮮やかな舞台演出で一人の少年の日常からSF的世界へ観客を納得させながら巻き込んでいく手腕はやはり類を見ない。今後も観続けたい劇団である。

 

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