ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(西浦博、川端裕人/2020)

 2020年、世界的に大流行した新型コロナウイルス感染症COVID-19。厚生労働省の通称「クラスター対策班」中心メンバーとして従事、4月の緊急事態宣言時に「8割接触減」を提唱した理論疫学者西浦博に対するインタビュー。聞き手は小説家・ノンフィクション作家の川端裕人

  面白いかどうかでいうと、めちゃくちゃ面白い。
 COVID-19は我々自身が現在進行形で巻き込まれており、また、日本政府による対策も試行錯誤というか二転三転というかで心休まらないが、そうした状況を内幕に関わった医学者の立場で一貫して描いているのが、一種の小気味よさを覚える。
 西浦がクラスター対策班立ち上げに関わった経緯は本書で初めて知った。きっかけは二つあって、一つは北海道大学(当時)の西浦研究室が国立感染症研究所と協定のようなものを結んでおり、日本で感染症が大流行した際には西浦研が駆けつけ数理モデルで対策立案に寄与するとしていたこと。もう一つは、2020年1月の段階で、海外にいる西浦の研究仲間の情報に基づき、武漢で流行していた新型コロナウイルスの世界的蔓延の可能性を察知していたこと。そこから西浦の怒涛の日々が始まる。
 政治家は温度差があり、同業者からは刺され、見知らぬ者から脅迫状が届く。それでも理論疫学を信じてハードにワークする姿勢にはただただ頭が下がる。また、科学者たちが2011年の原発事故を踏まえ、科学と、政治や社会とのコミュニケーションに腐心している様子は興味深く読んだ。

 普段報道で見るような政治家を内幕から医学者の視点で描いているのも非常に面白い。例えば、ダイヤモンド・プリンセス号の対応をしていた際の、厚生労働大臣加藤勝信との会話を描く場面。

 そうすると次第に大臣から直接電話をいただくようになります。もちろん、最初は驚きました。2月半ばのある日の深夜、知らない電話番号から着信があり、「加藤でございます」と言われて、「はい? どちらの加藤さまですか」と聞き返しました(笑)。「厚生労働大臣の加藤でございます」と言われてはっと居住まいを正しました。

 なんとなく目に浮かぶやり取りである。
 もう一つ、3月に鈴木直道北海道知事と面談した場面も紹介したい。

 とても聡明な方でした。僕よりまだ年下で30代ですが、夕張の市長を務めたことでも知られるハンサムガイです。話を聞いていくと、北海道はインバウンドで経済が成り立っていること、札幌といえば歓楽街すすきのであり、札幌の経済の中心だということ、これら二つが影響を受けるのは困るんだというのが知事の本音なのですね。
 (中略)押谷先生と僕からの意見として、「知事はすすきののバーを守りたいんでしょうけど、実はバーの方が危ないんです」と伝えると、うーん、どうしようという顔で、すごく困っていましたね。
 (中略)知事が退出する時、すぐに道の特別秘書の方が来て、電話番号を聞かれました。「もしなにか相談があった時は逐次連絡してもいいか」ということで、中間報告とか評価の時点とかで知事が発表する数日前、あるいは発表の直前に知事から直接電話が入るようになりました。

 これはどこにも書かれていないので個人的な妄想だが、鈴木道知事らは西浦が北大の教授だったこともあり特別に信頼感を寄せたのかもしれないなと思った。

 ノンフィクションとしては前述の通り西浦の視角で事態を描いているため、裏表でCOVID-19が引き起こすパンデミックの全体像は掴み切れない。それを補うために川端によるコラムが随時挿入されるという構成になっている(本文はライブ感を重視し、コラムで俯瞰的視点を補う、という手法は、例えば、『田中角栄研究』(立花隆)でも見られるように、ノンフィクションのスタンダードでもある)。
 とはいえ、例えば、「三密」に言及する次のくだり。

 さらにそこから、官邸の首相補佐官付の官僚が、「密閉」(換気の悪い密閉空間)、「密集」(多数が集まる密集場所)、「密接」(間近で会話や発声する密接場面)という「三つの密」というような巧みな言葉を作って、3月半ば以降に使われるようになりました。初めて聞いた時、さすがだなと思いましたよ。「密接」という言葉など、普通は考えつきません。というわけで、政治家が「三つの密が――」と言えるような状況を作ったのは、官邸の官僚だったんです。

「官邸の官僚」とさらっと書かれているが、これはいわゆる「官邸官僚」のことで、2020年という時代において独特のニュアンスを帯びた役職の人々である。こういった文脈は5年も過ぎるともはや読み取りが難しくなっているかもしれないが、川端のコラムでそこまではカバーできていない。だから悪いという意味でなく、むしろ渦中の今こそリアルタイムでよむべき本なのだろう。

 余談だが、西浦は元HKT48指原莉乃のファンであり、緊急事態宣言前後の激務の時期にTwitterで指原からの直接リプライに感激している様子は、個人的に好感をもった(アイドルファンはアイドルファンに甘い)。

 本書で次のような言い回しが口をついて出るのもアイドルファンならではだろう。

「8割おじさん」は僕の本来的な仕事や役割ではなく、あくまでも緊急時に必要となったあの一瞬の出来事であるべきものなのです。おそらく、もうしなくても大丈夫なので、そっと8割おじさん用のマイクを床に置けばいいのだと思って、東京に置いてきました。

 本書自体も一種のアイドル本として読むことができる。渦中へ飛び込んで、がむしゃらに取り組み、成長し、その成長していく姿を(本書のように)リアルタイムに衆目へさらけ出し、応援を勝ち得ていくさまは、まさにアイドル的ありようとも言える。

乃木坂46 26th選抜メンバー予想の答え合わせ

 2020/11/15(日)の「乃木坂工事中」で乃木坂46の2thシングル選抜メンバーが発表された。
 自分の事前の予想は以下の通りである。

予想

フォーメーションは6-6-9の21名で、
新内、田村、筒井、星野、岩本、北野、清宮、掛橋、高山
    梅澤、秋元、大園、与田、生田、松村
     遠藤、飛鳥、山下、久保、堀、賀喜
(井上、白石、中田、樋口、和田out、掛橋、清宮、田村、筒井in、Wセンターで山下・久保)

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実際の選抜メンバー

フォーメーションは5-7-7の19名で、
新内、清宮、田村、星野、筒井、岩本、高山
 松村、遠藤、大園、堀、与田、賀喜、秋元
   生田、梅澤、山下、久保、飛鳥
(井上、白石、中田、樋口、和田、北野out、清宮、田村、筒井in、センターは山下)

 何点か雑感を。

  • 山下さん初センターでよかった。この局面ではそれしかあり得ないだろうと思っていたけれど、一安心というか。個人的には久保さんも推していたが、センター横なのでほぼ文句なし(初センターに心強い同期を両脇へ置くのはよい采配)。
  • 田村さんは下馬評通り初選抜でしたね。清宮さんもよかった。
  • 1期生、3期生の置き方もほぼ織り込み済み(3期優遇に見えるかもだけど、結局岩本さんまでですからね)。
  • 2期生は2枠に……

【2021/4/13追記】

 次作27thシングル選抜メンバー予想は下記です。

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乃木坂46 26thシングル選抜メンバー予想

 2020/11/13(金)に公式Twitter乃木坂46の26thシングルが、2021/1/27(水)に発売されると告知された。2020/11/15(日)の「乃木坂工事中」で選抜メンバーが発表されるという。
 3/25(水)の25thシングル「しあわせの保護色」以来10カ月ぶりのシングル発売である。乃木坂46は通例で1年に2~4枚程度のシングルを発売しているが、間が空いたのは25thシングルの特典握手券が新型コロナウイルスの影響で捌けなかったためと推測される。ではなぜ26th発売が決定したかというと、10月から開始した「オンラインミート&グリート」で握手券を今後も捌いていける見通しがたったため、と類推できる。
 ブログは時代のログなので、メンバー選抜に関して、自分の予想をメモしておく。

情勢

 大物メンバー卒業の端境期であること、4期生センターお披露目がいったん終わったこと、を考えると、久保史緒里さん、山下美月さんのセンター抜擢は今しかないのでなかろうか?(2期生推しの方すみません)
 元々2人とも、いつかはセンター、という状態だったと思われるが、特に久保さんは7月の「音楽の日」で生田絵梨花さんの代打を見事に果たすなど上り調子で、今センターにしなくていつセンターにするの? というのが個人的な思い。

予想

フォーメーションは6-6-9の21名で、

新内、田村、筒井、星野、岩本、北野、清宮、掛橋、高山
    梅澤、秋元、大園、与田、生田、松村
     遠藤、飛鳥、山下、久保、堀、賀喜
(井上、白石、中田、樋口、和田out、掛橋、清宮、田村、筒井in、Wセンターで山下・久保)

 列順はあまり重視していません。
 以下、予想のポイント。

  • 秋元、生田、飛鳥、高山、星野、松村、北野、新内、堀、梅澤、大園、久保、山下、与田、遠藤、賀喜の16名は事実上確定なので、21名選抜とした場合、残りは5枠。
  • 4期生は筒井さんの確度が高い。また、昇格枠は、田村真祐さんの確度が高く、続くのは掛橋沙耶香さん、あとは悩ましいけれど、清宮レイさんか(早川聖来さんも全然あり得ると思うのだけれども)。
  • 3期生は引き続き岩本蓮加さんかな。
  • そりゃ自分だって伊藤純奈さんや山崎怜奈さんに選抜に入ってほしいけど、たぶん、そういう采配はなされないでしょうね……

【2020/11/15追記】

 答え合わせは下記です。

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 前回の25thシングルの選抜メンバー予想は下記です。

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FF14で初めてMMORPGをやったこと

 2020年9月から『ファイナルファンタジーXIV』(以下『FF14』)をやっている。「ファイナルファンタジー」シリーズナンバリングタイトルのMMORPGである。「ファイナルファンタジー」は好きだけどMMORPGというものをやったことがなく、多いに腰が引けていたところ、トライアルとして全4編の内2編が無料でプレイできるとのことで、恐る恐る触り始めた。
 MMORPGは他のプレイヤーとパーティーを組んで進めるものなのだろうけれども、当然、プレイヤーによってゲームを開始するタイミングは異なり、つまり、レベルもバラバラになるはずで、いったいどうやって成立しているのだろうと漠然と思っていた。実際にプレイしてみて、慣れている人にとっては当たり前かもしれないけれど、なるほどよく考えられた仕組みだなと感心した(『FF14』しかやったことがないので他のMMORPGは違う仕組みなのかもしれない)。

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(1)『FF14』の世界には「冒険者」と呼ばれるフリーランスの人々がたくさんいる。主人公(プレイヤー)も冒険者の一人である。

 MMORPGとしてはよくある設定なのだろうけれども、この設定がやはり重要である。言い換えると、主人公はただ一人の勇者「でない」(それがシナリオ上の誘引を弱めてもいるのだが)。

(2)メインクエストの大部分の時間はソロプレイで、他のプレイヤーとのパーティープレイはごく一部である。

 パーティープレイはどちらかといえばやりこみ要素のような位置づけ。

(3)メインクエストでパーティープレイが発生するのは、いくつかの「ダンジョン」(といくつかの「蛮神戦」)のみである。

 いわゆるダンジョンは『FF14』世界の広さからすると相対的にわずかで、数えるほどしかない。

(4)パーティーはタンク1名、ヒーラー1名、DPS2名とロール編成が決まっている。

 ジョブごとに所属するロールが決まっている。例えば、ナイトはタンク、白魔導士はヒーラー、モンクと黒魔導士はDPS、のように。

(5)プレイヤーは自らパーティーを組む必要がない。ダンジョンへ入ろうとすると、おなじダンジョンへ入ろうとしている他の冒険者(=他のプレイヤー)を、システムが自動でマッチングする(「コンテンツファインダー」という機能)。

「パーティ募集」という機能を使って事前にパーティーを組んでからダンジョンへ臨むことも可能だが、メインクエストを進めるだけなら自動マッチングで事足りる。なお、前述の通りパーティーの編成が規定されているため、規定人数通りにマッチングされて初めてダンジョンへ入ることができる。

(6)ダンジョンでは「レベルシンク」というシステムが発動し、パーティーメンバーはダンジョンごとの規定レベルへ強制的かつ一時的にレベルアップ/ダウンする。

 ビギナーもベテランもいったんはおなじレベルに揃えられてダンジョンへ挑むことになる。個人的にはこれが最も肝なシステムでないかと思っている。

(7)一度クリアしたダンジョンでも、特殊アイテムや特殊通貨のようなインセンティブがあり、高レベルプレイヤーでも再挑戦する価値がある。

 これも非常に重要な仕組みで、これがあるため『FF14』を最近始めたプレイヤーが、まったくマッチングできなくて立ち往生するのを防ぐことができている。

(8)ダンジョンではロールごとに果たすべき役割が明確に決まっており、その立ち振る舞いは「初心者の館」でトレーニングする。

 例えば、タンクであれば、先頭に立って、敵へ先制攻撃し、「敵視」を集める、というのが果たすべき役割。各ロールが自分の役割に専念していれば概ねダンジョンが攻略できるような設計になっている。逆に言うと、他のプレイヤーとコミュニケーションを取らなくてもチームプレイが成立するようになっている。各ロールでの立ち振る舞いは「初心者の館」でかなり徹底的にトレーニングされる。

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 というわけで、システム側が相当お膳立てしてくれているので、プレイヤーはギルドでフレンドを作ってわいわい的な感じでなく割とこう淡々とダンジョンを攻略できるようになっているのだけれども、やはり人が集まって行動を共にするので大なり小なりコミュニケーションに関するあれこれは起こるようだ。「FF14 コンテンツファインダー」で検索すると、「挨拶」一つとっても過去様々な議論が行われていたことが窺える。
 初見殺し的なダンジョンもいくつかあり、全員初心者で臨むと全滅の憂き目に遭い、初心者とベテランが「コンテンツファインダー」でマッチングして挑むと初心者だけがダダハマりして居たたまれない気持ちになるという……自分もタイタン討伐戦、ゼーメル要塞はちょっとトラウマになりました……まあ、それこそゲームというか、全滅してもリアルで死ぬわけでないので、トータルでは思い出ですが……

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 あと、パーティプレイの話とまったく関係ないけど、『FF14』、スクリーンショットでなくカメラ機能(「グループポーズ」という)がなかなか充実していて、構図やライティング、ポーズ、表情がいろいろ調整できるし、見た目重視の装備もたくさんあるしで、これはこれでやり込みたくなってしまう……

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乃木坂46「白石麻衣卒業コンサート」配信ライブ

 2020/10/28(水)に乃木坂46白石麻衣さんの卒業コンサートが催行された。1月に卒業を発表し、卒業コンサートは5月に東京ドームで行われるはずだったが、新型コロナウイルスの影響で延期、最終的にはリアルタイム配信形式のライブとなった。
 以下、「ライブの内容」、「ライブでの白石麻衣さん」、「楽天TV」について個人的な感想を記す。

ライブの内容

 セットリストは下記など。

www.nikkansports.com

「盛り上げ曲ブロック」→「期生曲ブロック」→「ユニット曲ブロック」→「表題曲ブロック」という、乃木坂46のライブとしてスタンダードな構成だった。
「ガールズルール」、「オフショアガール」、「渋谷ブルース」、「せっかちなかたつむり」など「当然やるだろう」という楽曲は概ねやられていた。個人的には、「意外BREAK」、「ロマンティックいか焼き」などもやってほしかったが、今回の構成だと取り入れるのは難しかったかもしれない(メンバーの口振りからすると本編最大2時間というなんらかの制約があったようだ)。
 M16「きっかけ」は、「待って」となった(意訳:人気曲「きっかけ」を白石麻衣さん独唱、生田絵梨花さんピアノ伴奏&ハモなんて心が震える)。
 M20「サヨナラの意味」は「待って無理」となった(意訳:「サヨナラの意味」という必殺曲(文字通り必殺という意味です)を歌いながら、白石麻衣さんがメンバーの肩を順番に抱いていくなんて、ファンは胸を打つしかない。特に、涙を流しながら入ってくる向井葉月さんや久保史緒里とかのくだりは泣かせる)。
 アンコールで松村沙友理さんが手紙を読んだのだけれども、「オーディションの帰りの乃木坂駅で男性に絡まれていた松村さんを白石さんが助けてあげて、それ以来松村さんにとって白石さんはずっとヒーロー」というエピソード、二人の出会いのエピソードとして完璧過ぎて、めちゃくちゃ好きなんですよね。あと、抜けで映っていた久保さんが(尊い……)という表情をしていた。

ライブでの白石麻衣さん

 特にユニット曲ブロックが顕著だったけれど、本来2期生以降も入るだろうユニット曲が、「でこぴん」の新内眞衣さんを除いて、すべて1期生メンバーで固められていた(おかげで、「せっかちなかたつむり」に星野みなみさんや齋藤飛鳥さんが参加するというレアなライブオリジナルユニットも観られたが)。
 また、ファンクラブ会員限定の「アフター配信」でも、2期生以降を代々木体育館へ残し、1期生のみで都内バスツアーへ旅立っていってしまった。
「1期生至上主義」という批判的なコメントも目にしたけれど、白石麻衣さんってそういう人なので……いや、別に1期生至上主義者だと言いたいわけでないのですが、1期生への愛がことさら深い。取り分けデビュー時からの選抜組で苦楽を共にしてきた生田絵梨花さん、松村沙友理さん、高山一実さんへの愛が深過ぎる。白石さんは人見知りな分、愛情が濃い人なのだろう。

楽天TV

 Abema TVやhuluを含む9つのプラットフォームがライブをリアルタイム配信した。特に楽天TVは乃木坂46モバイル会員(=ファンクラブ会員)向けの「アフター配信付き」を独占したため、チケットを買ったファンも少なくなかった。
 ところが当日、19時ライブ開始で18時半から楽天TVの専用ページを開けるはずが、接続エラーが続出し、チケットを購入していたファンが動揺した。自分もそうだった。リアルタイム配信ライブにも関わらず、配信サイト側のトラブルでアクセスできないというのは最も恐ろしいことである。

 19時ぎりぎりになり、乃木坂46公式Twitter楽天TV接続不良に伴う開始時間の後ろ倒しを発表し、いったん落ち着きが取り戻された。

 が、楽天TVの接続エラーが解消しないまま、19:24、楽天TVの状況いかんに関わらず19時半開始決行のアナウンスがあり、Twitter上は阿鼻叫喚となった。ファンにとって、白石さんの卒業コンサートが見逃し配信でよいわけない。

  自分も慌ててAbema TVのチケットを購入し、駆け込みで開始に間に合った。
 その後、Ameba TVで本編を観ながら、楽天TVへの接続可否も時々確認していたが、自分は19時40分頃に配信画面が表示されるようになった。人によっては20時前後まで接続できなかったようだ。

 ファンクラブ向けチケットを独占していたにも関わらずライブ開始からしばらく配信できなかったこと、そして、楽天TVに合わせてライブそのものの開始を30分遅らせたことからアンコールが22時をぶっちぎり、年少メンバーが最後まで参加できなくなってしまったことなど、罪は小さくない。
 一つ思うのは、なぜ今回19時開始としたのだろうか? 配信に限らずトラブルはあり得るので、リスクを見て17時台、せめて18時台開始でもよかったように思う(実際、これまでの乃木坂46のライブは17~18時台開始が多かった)。
 一方、一度接続できてしまうと楽天TVはその後比較的安定しており、画質も良好だった。このことから、動画配信系でなく認証系の方が問題だったのだろうかと考えた。チケット購入者数の規模感については乃木坂46運営と楽天TVの間である程度認識合わせがあったと思うが、楽天TVの偉い人が動画配信系のインフラは十分負荷に耐えられると請け合ったけれど、認証系のことが頭から抜けていたのかもしれない(これは勝手な憶測)。
 また、楽天TVの復旧目途がつかなかった時点で(10分で復旧できる目途なんて現場では絶対ついてなかったはず!)、ジーンさんの言うように、

一旦楽天抜きで開催して
モバイル買った人々には一般チケット代を払い戻せばいいんじゃない?
終演&アフターなんちゃらの時までは楽天も繋がるでしょ
(言葉にするのは簡単w

というのがスマートな対応だろうと個人的にも思う。けれども、ステークホルダーが多過ぎて、たぶん、乃木坂46運営委員長の今野さんでも即決するような裁量はなかったのでないかと推測される。

 その後、楽天TVはチケット購入者へ向け(条件付きでの)返金を発表した。

『人類と気候の10万年史』(中川毅/2017)

 近年は地球温暖化が進行しており、日本でもゲリラ豪雨や強い台風が頻発するような異常気象が続いている、と漠然と認識していた。が、本書を読んで、むしろ現代は地球史上稀に見る安定した気候であり、また、むしろいつ氷河期に転落してもおかしくないのだと知った。
 著者の中川毅は日本の古気候学者。京都大学大学院卒業後、国際日本文化研究センターニューカッスル大学等を経て、現在は立命館大学古気候学研究センター教授。

  本書は、著者が関わった福井県水月湖の年縞(放射性炭素による年代測定の「ものさし」として2013年以降の世界基準となっている)研究を中心に、気候変動と人類史を概説するというコンパクトな内容なのだが、読みどころは多い。
 白亜紀のように地球が最も温暖だった時代は北極や南極の氷もすべて溶けていた。一方、我々が住む現代は氷期の一部(間氷期)である。氷期はずっと寒いのでなく、気温は不安定な乱高下を繰り返す。暖かい年が連続したからといって翌年突然寒冷化するようなことがしばしばあったとされる。しかし、ホモ・サピエンスが農耕を始めたとされる一万六千年前以降は温暖でほとんど変動のない時代が続いている。こういったことは地学的には常識なのだろうが、自分は初めて知った。
 著者は、「変動の激しい氷期」から「安定した時代」への切り替えが、人類の文明発達に大きな影響をもたらしたと洞察する。

 それまで本質的に不安定だった気候は、一転して安定な状態に切り替わり、地球には安定した時代、言い換えるなら「近い未来なら予測可能」な時代がやってきた。予測が成り立つ時代とは、人間の演繹的な知恵が発揮されやすい時代ということでもある。氷期に巨大な古代文明が生まれなかったことと、氷期の気候が安定でなかったことの間には、おそらく密接な関係がある。

 この一文を読んで、あっ、と思ったのは、中国のSF小説『三体』(劉慈欣)を思い起こしたからである。『三体』は、まさしく「本質的に不安定だった気候」の人々が、「安定した時代」「「近い未来なら予測可能」な時代」を目指す話だ。

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 ちなみにこういった気候変動的な要素が、ゲーム『シヴィライゼーション』に要素として取り込まれたりしないかなとも思った(しかし、寒冷化したら文明が衰退する一方なので、ゲーム的には面白くないかもしれない)。
 以下、余談を二つほど。
 水月湖の年縞を最初に発見した人物として安田喜憲という人が登場する。

 水月湖で最初に本格的な掘削が行われたのは、1993年の夏のことである。掘削を指揮したのは、設立直後の国際日本文化研究センター助教授(当時)として抜擢されたばかりの気鋭の研究者、安田喜憲先生だった。他でもない、まだ大学院生だった当時の筆者の指導教官である。安田先生はその2年前の1991年、水月湖で年縞堆積物を発見された張本人である。

 安田喜憲は先だって取り上げた『長江文明の発見』(徐朝龍)角川ソフィア文庫版の解説を書いている。安田は徐と国際日本文化研究センターの同僚で、1996年に四川省へ飛び龍馬古城、三星堆文化の調査にあたっている。1993年から1996年の短い間に水月湖の掘削と長江文明の調査の両方に関わったとはちょっと驚きである。

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  それから著者はあとがきで山根一眞という人に謝辞を述べている。

 なお、私を篠木さんに紹介してくださったのは、ノンフィクション作家の山根一眞さんだった。山根さんは、もっとも早い段階で年縞研究に注目してくださったジャーナリストの一人である。水月湖が日本で多少なりとも注目されるようになったのは、山根さんの熱い語り口によるところがきわめて大きい。

 山根一眞は著作『メタルカラーの時代』で日本企業の新技術などを積極的に取り上げた。「週刊ポスト」連載ということもあっていささか品のない表現もあり、なかなか後世では評価されづらい作風かもしれないが、個人的には結構好きだった。調べると、山根は現在福井県年縞博物館の特別館長を務めている。

varve-museum.pref.fukui.lg.jp

「年縞」はまだ新しい言葉ですが、2018年1月に出版された『広辞苑・第7版』に初めて収載されました。多くの学科の教科書で、水月湖の年縞をテーマとするページが増え、生徒たちはいち早く年縞を学んでいます。私も、「中学国語」の教科書に年縞物語を書いています。
ご挨拶|施設紹介|福井県年縞博物館 公式HP

『TENET テネット』(クリストファー・ノーラン/2020)

 元CIA諜報員は銃痕が消えて弾丸が銃口へ戻る不思議な現象を目の当たりにする。未来から送られてきたそれらの兵器を使い「第三次世界大戦」を引き起こそうと企む者たちがいるらしい。陰謀を防ぐために彼は調査を開始するが――
 主演はデンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントン。他、ロバート・パティンソンエリザベス・デビッキケネス・ブラナーらが出演。監督は「ダークナイト」シリーズ、『インセプション』などを手掛けたクリストファー・ノーラン
www.youtube.com

 面白かった。よくも悪くもいろいろ言いたくなる作品である。

  ※ネタバレしています。

 本作はしばしば「一度観ただけでは十分に理解できない」と言われる。個人的に、これは時間逆行現象を取り扱っているからでなく、話自体が分かりづらいからでないかと思う。あらすじを説明しようとすると、思いのほか大変であることに気づく。それこそ一度観ただけで、冒頭のキエフの劇場襲撃場面、マイケル・ケインが登場する場面、オスロー空港での飛行機ぶつけちゃう場面を、あらすじとして手際よく説明できる人がいるだろうか? 全体を通して考えると、それぞれ、まあ、必要な場面である。しかし、プロットとして刈り込もうと思えば刈り込める。なんでこんな妙なストーリー展開にしたのか、後述するようにスパイ映画のフォーマットを意識したからなのだろうか……?
 一方、話がよく分からなくても、かっこいい絵面に、シリアスなトーン、もっともらしい会話劇、といういつものノーラン節で、楽しく観ることができる。時間逆行場面がかっこいいだけでなく、回送列車が行き交う操車場や、風力発電機が立ち並ぶ洋上など、いいロケーションを選んできているなという感じ(ノーラン本人がロケハンしてるかは知らんが)。
 主人公がインドやノルウェーエストニア*1のようにやたらと世界中を駆け巡るところとか、あとはインドで武器商人の邸宅へ忍び込むために逆バンジーをするという(ストーリー展開にはまったく影響しない)アクションギミックとか、本作はスパイ映画の風味が濃厚である。『ダークナイト』や『インセプション』でもスパイ映画の味付けはあったけれども、本作は突出しており、ノーランって007が好きだったのかと思った。絵面や語り口がノーランなのに、キャラクターたちがやってることは007という、これまた妙な佇まいに仕上がっている。*2
 時間逆行中は呼吸がうまくできないという設定をでっち上げ、「酸素マスクをしている時は逆行中」とビジュアルに示したのは地味にうまい。
 あと、ブルックスブラザースがディスられていて(「億万長者を名乗るならブルックスブラザーズではちょっとね……」)、映画でブルックスブラザーズがディスられるのは『ソーシャルネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー/2010)以来だなと思った。

*1:スパイ映画でタリンを舞台にするの渋いなと思った……でも、旧市街とかは全然出てこないのな!

*2:今、ウィキペディア見たら普通にジェームズ・ボンドが好きとありましたね
"He is also a fan of the James Bond films,[127] citing them as a "a huge source of inspiration" and has expressed his admiration for the work of composer John Barry.[128]"
Cinematic style of Christopher Nolan - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Cinematic_style_of_Christopher_Nolan