ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『ブラック校則』(菅原伸太郎/2019)

 校則の厳しい高校へ通う「陰キャ」の小野田創楽(そら)は、ある日、生まれつきの髪色で教師から目をつけられている町田希央(まお)に恋をする。家庭の事情で「地毛証明書」が提出できない彼女を守るため、創楽は友人の月岡中弥と校則を変えようと奮闘するが……
 日本テレビジェイ・ストームが製作する映画で、日本テレビ系列の深夜ドラマ、およびHuluでのスピンオフドラマも配信されている。監督は『いちごの唄』などを手掛けた菅原伸太郎。出演はSexy Zone佐藤勝利、King & Princeの髙橋海人、モトーラ世理奈、他SixTONESの田中樹、箭内夢菜成海璃子、でんでん、薬師丸ひろ子ら。

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 別の映画を観に行った際、本作の予告編が始まって、「おや、これ、なんの映画だろう、ちょっと気になるな」と思っていたところ、最後に『ブラック校則』というタイトルを目にして、「うーん、流行りのテーマを安直にもってきただけの映画か?」と思ってスルーしようとしていたところ、Twitterで数は多くないけれど「よかった」という感想を知り、これは始めの直感を信じるべきかと劇場へ足を運んだ。
 結論から言うと、粗はいろいろあるけれど、面白かった。
 後述の通りでメインターゲットはジャニーズファンかもしれないけれど、例えば、「アフター6ジャンクション」などで取り上げられたりすると、もっと広範に人気の出そうな感じがする。*1

 ※ネタバレしています。

 始めに製作会社のロゴでJ Stormと出るので「ジャニーズ事務所の映画なのか」とぼんやり思ったのだけど、エンディングでSexy Zoneによる主題歌「麒麟の子」がかかるまで、そのことを完全に忘れていた(「麒麟の子」のジャニーズ節はジャニーズ事務所映画であることを即座に思い出させてくれる)。それくらい本編はジャニーズ色がない。主人公にかっこいい場面はほとんど与えられず、情けない描写ばかりだ。
 主人公の創楽は直情的に茶髪禁止の校則を変えようと走り回るも、教師はもちろん生徒からも相手にされない。友人の中弥は「まず生徒の意識を変えないと」と説く。しかし、生徒たちも単純に校則へ追従しているわけでなく、校則や学校へ複雑な葛藤を抱いていることが、校舎裏の雑多な落書きによって表現される。このような「生徒の本音」は2ちゃんねる掲示板だったりTwitterSNSだったりで表現されがちだが、校舎裏の落書きにレスを付けていくスタイルというのはフレッシュだし、開放感もあっていい演出だと思った。

 趣味的な要素というか目配せというかそういうのも多数盛り込まれており、うじうじしている主人公に対して小学生の妹が淀みない長文説教をする場面がめちゃくちゃ面白い。ダメ兄貴主人公とマセた妹の組み合わせ、『(500)日のサマー』(マーク・ウェブ/2009)以来ですよ……
 スクラップ工場で働くフリースタイルがうまい外国人労働者たちが大変いい味出してるんだけど(登場するなりフリースタイルで主人公を追い込んでいく場面の秀逸さ)、でんでん演じる校長先生が登場すると彼らですら「やべえやつが来た」みたいになるの、完全に『冷たい熱帯魚』(園子温/2011)を意識していますよね。
 あと、創楽と中弥の関係性、ナイーブな主人公と自分をもっているけれど本音を見せない友人、ちょっと『ッポイ!』(やまざき貴子)を感じさせるんですよね……

 よくないところは二つあって、一つはクライマックスの校庭での場面。東がフリースタイルラップをしたり、創楽が演説を始めたりというのを、これまで強圧的だった教師たちがぼーっと突っ立って見ているだけなのは、あまりもご都合主義的。これまでさりげなく描かれてきたサブキャラたちの特技が次々と発揮されるなど、テンションの高い場面であるので大きくは気にならないけれど、もう少しなんとかしてほしかった。
 もう一つは、『ブラック校則』というタイトルでありながら、結局、校則を変えるのでなく、希央の地毛証明書をいかにして手に入れるか、という話に途中で変わってしまっていること。作品内の登場人物たちはあの顛末で満足しているのだろうけれども、せっかく社会問題を真正面から取り上げているので、できれば初志通り校則を変える話で貫徹してほしかった。

 全般的には、描きたいことへの力の入れようと、そうでないことへの抜きようが、割とはっきりしている映画だと思った。ただ、ジャニーズ事務所の利害が入り込んでしまいそうなところをぐっと抑制し、一本の映画に仕上げようとした気概は十分感じられ、最近のLDHによる一連の映画に対するジャニーズ事務所からのアンサーなのではないか、とも思った。

映画「ブラック校則」 オリジナル・サウンドトラック

映画「ブラック校則」 オリジナル・サウンドトラック

 

*1:オリコンによると初週興収ランキングは10位。
https://www.oricon.co.jp/rank/sj/w/2019-11-11/