ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『ホットギミック ガールミーツボーイ』(山戸結希/2019)

 自信のもてない高校生の初(はつみ)は、俺様な秀才亮輝、幼馴染で雑誌モデルをしている憧れの梓、そして、優しい兄の凌、3人の男性の間で気持ちが揺れ動く。
 原作は2000年から2005年まで「ベツコミ」で連載された相原実貴の少女マンガ。
 出演は乃木坂46堀未央奈清水尋也板垣瑞生間宮祥太朗ら。監督は『5つ数えれば君の夢』、『溺れるナイフ』などを手掛けた山戸結希。

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 自分は乃木坂46を応援しているので、現役メンバーの主演作くらいは観ておこうと思い、劇場へ足を運んだのだけれど、全然思っていたのと違う映画であった。

 ※ネタバレしています。

一般映画としての視点

 原作マンガはポップな逆ハーレムものって感じじゃないですか。一方、映画の予告編観ると切ない系に倒してる感じじゃないですか。
 で、そういうつもりで本編観ると。
 スプリットスクリーンありの、細切れ編集による掛け合い調の会話ありの、そうかと思えばワンカット長回しありの、オフショット風を交えたスライドショーありの。もう出だしからぎんぎんに気合の入った編集と演出で観客を圧倒してくる。その他にも額縁を小道具に使い絵画を意識したような初と梓のキスシーンなど、とにかくスクリーンの密度が濃い。さらにはアイドル主演でありながら肌のきめまで見せる顔面ドアップの連発! 嫌がらせか。
 マンガでは主要人物がおなじ社宅に住んでいるという設定で、社宅のウェットな人間関係も描かれたりするのですが、映画は江東区豊洲、いわゆる湾岸地帯の集合住宅に舞台を置き換えて、随分とドライなタッチにしているのですね(そして、しつこいくらい湾岸集合住宅のカットをインサートしてくる!)。
 改めて原作マンガを読むとストーリー展開自体はほぼおなじなんだけど(意外なほどに)、編集と演出でほぼ別作品。すごい手腕です。

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 ただ、若手俳優ファンやアイドルファンは演出に面食らうだろうし、映画好きは青臭いストーリーに鼻白むだろうし(言っても好きとか嫌いとかって話なので)、いったい誰をターゲットとした制作なのだろうか、と疑問には感じる。
 また、後半はストーリーが失速してしまい、主人公の初が3人の男の間で行ったり来たりしているだけの浮ついた女に見えてしまうのがちょっと難点。これなら1時間半くらいで切り上げた方がよかったのではないか。

乃木坂46映画としての視点

 容赦なくキスシーンがあるのですけれども、堀未央奈さんガチ恋勢の人は息をしているのでしょうか……

 それはともかく、乃木坂46と山戸結希監督は以前からつながりがあり、これまで乃木坂46の楽曲「ごめんね ずっと…」(2015年)、「ハルジオンが咲く頃」(2016年)の2作のMVを山戸監督が担当している。
「ごめんね ずっと…」は11thシングル「命は美しい」のカップリング曲で西野七瀬さんのソロ楽曲。乃木坂46であるところの西野さんと、アイドルにならず一般社会人になったもう一人の西野さんをほぼ全編スプリットスクリーンで描くという意欲作(なので、『ホットギミック』でスプリットスクリーンが出てきた時、「山戸監督、スプリットスクリーン好きだな~」と思った。デ・パルマとかとは全然違うテイストですが)

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 「ハルジオンが咲く頃」は14thシングル表題曲で深川麻衣さんの卒業センター曲。戦前風女学校と現代がない混ぜになったような世界観で、強烈な百合風味がファンを困惑させたものでした(日本語版はショートバージョンなので台湾公式版で)。

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 この対談記事を読む限り、「ハルジオンが咲く頃」のMV撮影がきっかけで山戸監督が堀さんにオファーをしたようだ。

ハルジオンが咲く頃」のMVでご一緒した時に、堀さんは人としてすごく真摯な方だなということをほとばしるように感じて、その存在が自分の胸の中に強く残っていたんです。今回、東映さんと『ホットギミック』を作るとなった時に、記憶の矢が刺さっていた堀さんのことがすぐに頭に浮かび、「これは堀さんなんじゃないか」と直感的に感じて、私のほうから堀さんを主演に提案させていただきました。

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 上述のような場面もあり、乃木坂46ファン向けかというと難しいところなのですが、大変尖っている作品で、個人的にはなかなか印象深い映画でした。