ぶりだいこんブログ

推理小説とか乃木坂46の話をしています。

『元年春之祭』(陸秋槎/2017)

 古代中国、前漢の旧楚の地域を舞台に、祭祀を担う一族が次々と殺害されていく。現場は衆人環視の密室。長安より客人として招かれていた豪族の娘於陵葵(おりょうき)は、一族の娘観露申(かんろしん)と共に、四書五経の知識を駆使して謎に挑む。
 著者の陸秋槎は中国北京の出身。中国でのミステリ文学賞である「華文推理大奨賽」を受賞し、デビュー。日本語に堪能で日本の推理小説に造詣が深い。本作が長編デビュー作であり、日本初翻訳作品でもある。現在は金沢に在住している。

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

 

  ※ネタバレしています。

 これはまたとんでもない作品が出てきたなと思った。主人公は前漢武帝の時代の知識人という設定なので、会話の中で当たり前のように『論語』や『詩経』が引用される。祭祀に使われる器具も想像のつかないものばかり。ペダントリーに過ぎないと分かっていても、頭がくらくらする(これ、訳者の方は訳すの大変だったでしょうね……)。
 それでも読み進められるのは、知識を鼻にかけた暴言暴力少女於陵葵(おりょうき)、素朴な育ちで葵に反発と憧れを抱く観露申(かんろしん)、於陵葵の召使でどこまでも忠実な小休(しょうきゅう)の三人の少女の掛け合いが、これは著者の目論見通りなのだろうけれども、一種ライトノベル的に類型的で、甘酸っぱさみたいなものがあるからだろう。
 二つの事件が描かれる。一つは、観露申の親族の家で過去に起こった、その家の娘だけが生き延びた一家惨殺事件。もう一つは現在進行形で起こる観一族の連続殺人事件。それぞれ、古代中国で密室を構成するために、雪密室と衆人環視の密室を引用している。
 解かれるトリックよりも、むしろホワイダニットインパクトを与えるだろう。自分は解決偏を読んで「あ!」と思ったのだけど、それはまた別の記事で書くと思う。
 あとは、前半で楚の詩人屈原が実は女性であったという説が議論される。屈原の詩作『離騒』で女性の視点で描いた詩があるけれど、それは比喩でなく実際に女性だったからだ、というのが一つの論拠となっていた。なかなか面白く読んだけれど、中国でどれほど支持されている説なのだろうか。
 総じて、著者の漢籍に対する深い知識が全面的に反映された、他に類を見ない推理小説だと思う。個人的には、現代を舞台にした作品も読んでみたいと思った。あとがきによると、続刊である『雪が白いとき、かつそのときに限り』と『桜草忌』は学園ものだそうなので、そちらの翻訳も楽しみにしたい。

 余談だが、著者の陸秋槎氏とは、以前、Twitterでほんの少しだけやり取りをしたことがある。確か、「坂道シリーズ」の百合性についての話題だったように思う。「推理小説とか乃木坂46の話」をする当ブログで、本作を取り上げないわけにはいかなかった。

 

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