ぶりだいこんブログ

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『北朝鮮 核の資金源』(古川勝久/2017)

 北朝鮮はいかにして国連の制裁をかいくぐり、核ミサイル開発に成功したのか。その国際的なネットワークを明らかにするノンフィクション作品。著者は安全保障の研究者で、2011年~2016年の間、国連安保理北朝鮮制裁の専門家パネルに従事した古川勝久

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録

 

 二点感じたことがある。

 一点目は、国連という組織の足並みの揃わさだ。
 安保理が制裁を決議するには、著者が所属していた国連事務総長下の専門家パネルが国連の正式文書である年次報告書で制裁を勧告する必要がある。そして、専門家パネルが年次報告書を提出するには、パネル内でコンセンサスを得る必要がある。が、常任理事国である中国とロシアから派遣された専門家は陰に陽に報告を妨害する。

 パネルの同僚の中国人は、人民解放軍からの出向者で、30歳代前半だ。性格は温和だが、忠告どおりの人物であることはすぐにわかった。パネルの捜査に、何かにつけストップをかける。中国企業が制裁違反を犯したら、その事実を徹底的に隠蔽しようとする。明白な制裁違反があっても、「違反とは言い切れない」と言い続ける。国連の公式文書に、決して中国企業による違反行為について記述されないよう、あらゆる屁理屈をもって妨害する。他の同僚の動向を監視して、中国政府に報告する――

 

 ロシア人の同僚は、外務省から出向してきた定年間際の人物だった。仕事をまったくしないうえ、彼も”海外旅行”が大好きだ。ニューヨークにいても、オフィスにはほとんどいない。日中の大半を自宅で過ごしているらしい。たまにオフィスにいるときは、かなりの時間を電話に費やしていた。ロシアにいる家族に国際電話をしているようだ。

 中国、ロシアは北朝鮮の後見役であるからある意味しかたないとして、イギリス、フランスも負けていない。

 安保理にかかわる国連の組織では、イギリスとフランスの出身者が重要なポストを占める。いわば既得権益だ。能力とは一切関係ない。こうした連中がしばしば問題を引き起こすので、国連で両国の評判は概して悪い。彼らが不要な問題を引き起こさぬよう、こちらがカバーしないといけなかった。多大なる時間の浪費は、捜査に支障を来す。特定の安保理常任理事国が外交的なメンツばかりを重んじるため、制裁の実効で問題が生じていた。

 国連のことをあまりよく知らない自分は、国連に対してなんとなくポジティブなイメージを抱いていたが、こんなに生臭いところだったのかと思った。が、よくよく考えてみれば、文化も政治思想も異なる国々の連中が、母国の利害関係を背負って集まってきているので、こうなるのも当然なのかもしれない。

 二点目は、北朝鮮制裁の実務的な困難さである。
 例えば、北朝鮮が兵器やその部品の輸出入に使っているフロント企業を制裁対象に加える。しかし、加えたからといって、即、各国が実際的な制裁を行えるわけではない。国連の制裁対象へ指定された北朝鮮フロント企業OMM社の貨物船が、2015年、鳥取の境港沖に停泊した際、日本政府は物資没収などの措置を取らなかった。兵器開発にまつわる物品や関係する証拠を保持していた可能性があったにも関わらず、だ。なぜなら、日本には裏付けとなる法令が存在しないからである(法令がないから北朝鮮の船舶でも資産凍結をしないというのは、ある意味法治国家として信頼できるとも言えるが……)。かように、安保理が決議した制裁を加盟各国が履行するには多種多様な困難さが付きまとい、結局、十分に実行し切れない、ということを本書によって知った。

 また、北朝鮮に対する姿勢は国によって随分と温度差があるものなのだということも知った。自分もそうだが、一般的な日本人の北朝鮮に対する印象といえば国交はないわ、拉致するわ、ミサイルを飛ばすわで最悪に近いものだと思われるが、世界の国々――それは中国やロシアのような後見役の国だけでなく、台湾、マレーシア、ミャンマーといった東アジア諸国エチオピアウガンダアンゴラスーダンのようなアフリカ諸国にとっても、北朝鮮は重要な商取引のパートナー、なのである。北朝鮮がアフリカ諸国へ輸出しているもの――これは今となっては北朝鮮しか輸出できず、変な話、国際分業として成立してしまっているきらいがある。

 ちなみに、著者が参加した専門家パネルの制裁違反調査報告は国連のサイトで読むことができる。

Home | United Nations > ページフッター MAIN BODIES > Security Council

United Nations Security Council > ページヘッダーのSUBSIDIARY ORGANS

 >Security Council Subsidiary Bodies: An Overview | United Nations Security Council Subsidiary Organs > ページヘッダーのSANCTIONS > 1718 Sanctions Comittie (DPRK)

    >Security Council Committee established pursuant to resolution 1718 (2006) | United Nations Security Council Subsidiary Organs > 左カラムのPanel of Exparts > Reports

 例えば、2014年の最終報告(確かに連名で著者の名が入っている)。英文127ページのためほんの少ししか目を通していないが、押収した物品や商取引に使われたInvoiceなどを具体的に図示しており、なるほど、制裁違反の証拠説明というのはこうやって行うものなのだな、と興味深く眺めた。

 最後に、非常にどうでもよいことなのだが、研究者から安保理専門家パネルへ転身した古川勝久はいったいどういう人物なのだろう、と興味をもってGoogle検索してみると、意外にも遠目にはハライチ澤部のような風貌の持ち主なのであった。